現行の音楽シーンに強烈なインパクトを与える重要作
石崎 寛(タワーレコード名古屋近鉄パッセ店)

 生涯を通して真っ直ぐに向き合っていきたい音楽家、佐野元春の約4年半ぶりとなるニュー・アルバム『THE SUN』。清々しさとひたむきな情熱に満ちたこのアルバムは、彼の新たな出発点であり、現行の音楽シーンに強烈なインパクトを与える重要作である!まずはそう断言しておきたい。きっと円熟味よりもリアルなロックンロールを求める元春ファンも少なくないはずだが、そんな期待にも『THE SUN』は、多彩なサウンドとストーリー性のある14の楽曲で応えてくれるだろう。例えば、

 先行シングル#1“月夜を往け”は、初期元春スタイルを彷彿させるWALL OF SOUND。良い意味で青くポップな仕上り。自己ルーツへの回帰といえば“希望”もそれが色濃いナンバー。開放的なアレンジが心をなごませる。加えて“恋しいわが家”も懐かしく温かい質感。

 スタイリッシュなサックスと共に進行する#2“最後の1ピース”は、タイトでリズミックな展開が心地好い大人のロック。バンド・サウンドへの変らぬこだわりを再認識せずにはいられない。続く#3“恵みの雨”は、不安な日常を抱えた人々へのエールとも受け取れる。「錆びてる心に火をつけて / 我が道を行け」、このフレーズが頼もしく響く。

 ラテン・テイストを注入した#6“観覧車の夜”での鉄壁な演奏も特筆もの。体内リズムを掻き立てるライヴ感が際立っている。また、昨年12月にシングル・リリースされた#8“君の魂 大事な魂”は、実際のライヴでも人気の高いニュー・スタンダード。「いつかこの世界が変わるその日まで / 繰り返す言葉はI love youノ」だなんて、熱いものがこみ上げてくる。そしてピュアな心を取り戻せる瞬間。ちなみにホーン・セクションに東京スカパラダイスオーケストラが、バッキング・ボーカルとしてメロディー・セクトンとレヨナが参加している。

 一方ソフトなところでは、元春らしいさりげない優しさ・誠実さが伝わってくる#10“レイナ”をお勧めしたい。時に彼の音楽はたった一人のあなたに向けられている。

 示唆に富む#13“国のための準備”を経て、ラストの#14“太陽”へ。「God 夢を見る力をもっと」、何度聴いても心が大きく動いてしまう。この曲を含め『THE SUN』からの一番の贈り物は、生きることへの希望と勇気!

 冒険の旅は果てしなく続く。虹の向こうの目的地を目指して、さらに四半世紀はお供させていただきます。