心震わせる日
小野高裕

 本の中で、元春は「腐ったヒットチャートはくずかごの中」という言葉を書いていた気がする。僕の好きな言葉だ。佐野元春だけがロックじゃないとは思うけど、少なくとも腐ったヒットチャートの中には僕の心を震わせるものはここ最近無かった。勿論、ヒットチャートの外に目を向ければ、上質な音楽はたくさんあるんだと思う。でも、佐野元春を知ってしまった十数年前から、僕の心を震わせる音楽は皆無と言ってもよかった。

 僕は今年31歳。元春ファンの中では若い方だと思う。そんな僕でも、この前二十歳の若者に「お前のアイドルって誰だった?」と聞いて、「安室っすかね。」と言われてショックを受けている。高度成長って時代に生まれ、バブルの頃に学生時代。不況の真っ只中に社会に出て、それなりに苦労だってしている。でも、なんだかんだ言って恵まれた環境で育ってきたんだと思う。

 僕と同世代の演歌は尾崎豊だと思う。でも、僕はバイクを盗まなかったし、校舎の窓ガラスも割らなかった。その他ロックを想起させるものは、やっぱりどこか泥臭い、悪っぽい物か、逆にニューウェーブを思わせるフニャフニャした物だ。そんな中で僕は佐野元春に出会った。環境が変わっても、世界が変わっても、僕は彼の音楽と詩の世界に夢中だ。スピーカーの前で、ライブ会場で、僕はいつも心震わせている。それは、一つか二つ向こうの世代からのメッセージを受信している反応だと思う。彼の言う「リスペクトの精神」を心の中に刻む瞬間に僕は心震わせる。

 新しいアルバム「The Sun」は、僕が実際に共感を得る歌詞と、これから経験するであろう世代の歌詞の共存した世界だ。それでも僕はこの14曲全てに心が震えた。それは、偉い評論家の皆さんが口を揃えて言っている「ロックンロールアルバム」だからなのかもしれない。ロックの普遍性を体感できる数少ない瞬間を僕は体験しているのかもしれない。ミュージシャンから放たれるメッセージに心震わせる感動は世代を超える事を、彼は腐ったヒットチャートに左右されるこの国で実感させる稀有な存在だと改めて感じた。

 音楽が詳しいわけじゃない。ロックを語れるほどの信念も無い。でも、評論家の皆さんがこのアルバムを「ロック」だと評価するのであれば、僕はこれからもずっとロックンローラーだ。