Keep On Trippin' with THE SUN
▼ C O N T E N T S

■『THE SUN』と旅
MWS meets 吉田カバン
THE SUN Friends Series
旅にまつわるエピソード [コラム]
佐野元春のカバン拝見 [コラム]
インタビュー:今井 'KenG' 健史
テキスト編集:森本真也
デザイン&写真:小山雅嗣
編集協力:M's Factory、大山貴



 THE SUNを持って旅に出よう ─ そのフレーズのとおり、『THE SUN』は、体も心もトリップをしたくなるような感覚へと誘ってくれるアルバムだ。書籍「地図のない旅」の筆者である吉原聖洋氏は「佐野元春のレコードを聴くということは、旅という経験をするようなものだ」と語ったという。成熟したロックミュージックを抱えて自分のための旅へ出る。素敵じゃないか。MWSではそんな皆さんの良い旅をサポートするため、吉田カバンとのパートナーシップによるオリジナルバッグ「MWS meets 吉田カバン」を開発し、MWSストアで10月30日より販売をスタートした。そこで、完成品を見るのは初めてという元春の手元にバッグを届け、「THE SUN」「旅」「カバン」といったテーマをちりばめながら伺った楽しいインタビュー&エピソードをここでお届けしよう。




日常や自分が慣れ親しんだ場所から離れることによって、
視点が新たになり、新たな認識が生まれてくる
─ 今年(2004年)7月に『THE SUN』をリリースされ、ツアーも始まりましたが、リスナーからのフィードバックはいかがですか?

佐野●『THE SUN』アルバムはとても評判がよく、広い世代の方から「アルバム聴いた。良かったよ」という感想をいただいて、すごく嬉しいですね。MWSコミュニティの中でも、『THE SUN』の感想ページがあります。すでに200以上のコメントが掲載されているということで、もちろん、僕も拝見しました。こんなにも深く聴いてくれて、そして僕の音楽を、新しいアルバムを4年も待っていてくれたことが、本当に涙が出るくらい嬉しいですね。

─ ひとつひとつを読んでいると、それぞれにすごく思い入れを感じます。

佐野●このメッセージ集は本当に僕の力になります。力になるということは、自信に繋がるということ。その自信が「THE SUN TOUR」のパフォーマンスに繋がっています。皆さんからのフィードバックに勇気をもらいました。あらためて、「どうもありがとう」と伝えたいです。この『THE SUN』アルバム、思い返せば制作に長い時間が掛かったんですけど、それだけに佐野元春のソングライティングとH.K.B.のサウンドをとことん詰めることが出来ました。僕もH.K.B.も、自分たちにとっての最高傑作だとはっきり言えます。

 それで、制作してる時からなんだけど、僕は『THE SUN』のいろいろな曲を携帯プレーヤーに入れて、旅行先で聴いたり、船の上や列車の中、車の中、あるいは街を歩きながら聴いてみたりしました。実際、移動する景色の中で自分の曲がどう響くんだろうと確かめながら作ったアルバムでもあるんですね。だから、『THE SUN』は室内より屋外に向いているんじゃないかなと思っています。僕もときどき、自分の好きな曲をiPodなどに入れて外の景色の中で聴いてみたり、あるいは移動する空間の中で聴いてみたりすると、いつも聴いている曲なんだけど、いつもと違うメッセージが聞こえたりとか、新たな発見があったりするんだよね。それなので、僕は室内でじっと聴くよりも、外でいろいろな刺激の中で音楽が鳴り響いているのが好きですね。この『THE SUN』アルバムもそうあってほしいな、というメッセージを込めて「THE SUNを持って旅に出よう」というキャッチフレーズでプロモーションしました。

─ 『THE SUN』をiPodに入れて、旅だけではなく、街中をバスや電車で移動しているときに聴いたりしました。佐野さんの曲って景色が見える歌詞が多いですが、聴いている曲の景色と自分が見てる景色がドンピシャに重なるときというのがあるんですね。それが、先ほど言われたようにメッセージが違って聞こえてくる瞬間ですね。

佐野●旅の形やスタイルにも関わってくるのだけども、旅にもいくつか種類があると思うんですね。ひとつは能動的な旅。もうひとつは、どこかに行かなくちゃならないという受動的な旅。僕が言っている旅というのはやはり前者ですね。日常から離れて、あるいは自分が慣れ親しんだ場所やコミュニティから一旦離れることによって、視点が新たになる。そうすると、今までこうだと思っていたことも、新たな認識が生まれることがあるんだよね。自分の場合、そうした旅で移動している中で詩の一節が浮かんだり、曲のモチーフが浮かんだりすることがよくある。『THE SUN』アルバムの14曲、このどれもが僕がこの4年間、いろんなところに移動する中で浮かんで来た曲やモチーフを元に制作された。だからきっと、出来上がった後も移動しながら聴いてもらうと良いんじゃないかと僕は思ったんですよね。

─ 佐野さんの中で、移動しながら曲を聴くシチュエーションで、とくに印象に残っているのはなんですか?

佐野●やっぱり車の中で聴いた時間が長かったね。僕もすごく車が好きで、18歳のときに免許を取ってからほとんど毎日車に乗り、車の中で音楽を聴く時間が長かった。また、車の中で作曲したり詞のモチーフが浮かんだりすることも多かったんだね。それで、車に乗っているときはテンポの速い曲がよくできるんだよね。まぁ、車に乗って日常から離れていくというのもひとつのトリップ、旅だからね。その中で鳴っていてほしい音楽を自分から選んでセットするというのは、良いんじゃないかな。


─ 『THE SUN』の中で「遠い声」の主人公は、車に乗って何かに近づいていってますよね。車が非日常へ行くものではなく、日常へ行くものというのは、何か心境の変化などあるのでしょうか?

佐野●それは面白いね。それは詞を作る時の大きなモチーフなんだよ。安全で安定しているところから、混沌へ行こうとするときにドラマが生まれ、そこに詞が生まれる。それで、混沌に疲れて安定を求めて戻っていく。ここにもまたドラマが生まれてくる。これはソングライティングの基本なんだ。「遠い声」は、混沌から安心できる場所へ1センチ2センチ3センチと、じれったいほど少ないけど、でも確実に近づいていってるよってね。ああいうのは、旅に出て移動する列車の中でとか、流れる景色を見ながら聞いてもらうと、また違った印象で楽しく聞いてもらえるんじゃないかな。

─ 「THE SUNを持って旅に出よう」ということで、その人なりの旅があって、いろんな人がいろんな景色を見た中でのアルバムの感想があると思います。その中で多かった意見というのはありますか?

佐野●フィードバックの中で一番目立つのは「泣きました」。まぁ、僕は泣かせるために作ったわけじゃないですけども。それは僕の理解だと「深いところで感じました」って言ってくれてるのかなと思うんですよね。自分はソングライターなので、ひとつの物語を書き、歌い、それが誰かの元へ届いて、その人の物語へと変わっていく。シンガーソングライターとしてこれほど光栄なことはないね。だから、受け取ってくれた方が随分たくさんいて嬉しいな、という率直な感想があります。