特集 = VISITORS再訪

『VISITORS DELUXE EDITION』に、最新の佐野元春を見た

富藤元一

 朝の白い息が舞う、冬がやってきた。2014年秋ツアーが終わって1週間が経ち、ツアーの興奮を、淹れたてのコーヒーを冷ましながらゆっくり飲んでいる。なんだか「Sunday Morning Blue」がとてもよく似合う時間だ。

 楽曲と佐野元春本人の意志が会場を強くドライブした2014年秋ツアー。それに加え、The Coyote Bandのバンドサウンドが、楽曲と佐野元春本人と明らかに手をつなぎ、強い握手をしていた。そこまでは多く語られているが、2014年秋ツアーは佐野元春&The Coyote Bandを奏でる会場音響(PA)を含めて語るべきではないだろうか。佐野元春のコンサートに足を運び続けているファンであれば、気づいた人もいるだろう。“足腰が座ったタイトなライブサウンド”へ変化している。一聴しただけでは、分からないかもしれない。しかし明らかに変貌を遂げていた。その会場音響(PA)が、今回のツアーの醍醐味をさらに加速させていたのだ。

 これまでも佐野元春のコンサートは、大音量であるにも関わらず、音の隅々まで緻密で明瞭、かつ重厚なサウンド設計だった。それは現在も変わらない。佐野元春コンサートの魅力のひとつでもある。しかしそれはそのままに、”傾向”が変わったのだ。佐野元春の新たなサウンド設計の航海図を示していた。

 とはいえ、実際に会場に足を運ばない限り、その”傾向”は言葉を重ねてもうまく想像できないだろう。そんな人は『VISITORS DELUXE EDITION』を手に取るといい。総合設計された佐野元春コンサート同様、パッケージからライナーノーツ、リマスターされた楽曲のひとつひとつにいたるまでトータルにデザインされている。なかでもその”傾向”を知りたいのであれば、「VISITORS」「SHAME」のSHOJIRO MIX VERSIONの2曲を聴くといい。締まったベースライン上に鍵盤が踊る。

 そこには新たな方向性をデザインする佐野元春の姿が垣間見える。

[Back to Contents]