情熱という名の果てしない宇宙
空風

 キリがない程の創作アイディアが、どこまでも溢れ続けていたBlood Moonアルバムのレコーディング。世の中のこと、作者ご自身に似た誰かが思うことが、スラスラと心のスケッチブックをあっという間に埋めていったのかもしれない。更に言えば、その辺のタオルを手に取っただけで触発され、一曲浮かんでしまうようだったのかもしれない。その創作の源を探ろうとすると、不思議な嬉しさに満ちて、こちらの想像力まで逞しくなってしまう(笑)。

 サウンドデザインが秀逸で、その曲毎のイメージが捉えやすく表現されている。必要と感じれば、スプーンも楽器になってしまう発想には脱帽だ。ライブ行脚の日々を何年もしてきたコヨーテバンドの、コヨーテバンドのメンバーとしてのそれぞれの個性の芽吹きが感じ取れ、それぞれのカラーが混ざって出来る、新たな色合いにときめきを覚える。いきなり寄り集まって楽譜を共有し、せーの!で合奏する即席バンドも凄いとは思うけれど、作者ご自身の求めているバンドはそうではないと思う。時間をかけ、幾度も音も心も合わせ、共に場数を踏み、バランスをみながらそれぞれの個性を楽曲に活かし、独自のゴキゲンなスタイルを持つバンド作りを好むように感じる。その一方で、話題のフロントカバー等々、アルバムの全てをご自身で手がける丁寧な拘りも魅力だ。

 このアルバムに散りばめられているのは、ブルースだと思う。無理に踊れとは言わない。なのに、踊りたくなかった筈の自分が踊りたくなっている。強い共感と、鋭い言葉の影にのぞく優しさ、残酷で不安な現実に立ち尽くす我々の心へじんわり沁みる表現…リリックだけではないその表現に、心が浄化されていく。今に至っても、ライブで聴きたい曲が満載だ。

 Blood Moonアルバムは、アナログ盤、CDの他にハイレゾ盤まである。どんな環境でこのアルバムを聴いたとしても、作者ご自身がかけた思いは分け隔てなく伝わり、名盤としてそれぞれの聴き手に届いている。彼の情熱という名の果てしない宇宙は、無限。だって、まだまだ創作の宇宙を心地良さそうに泳いでいるようだから。

 Blood Moonアルバムを、ありがとう。