Interactive Liner Notes
アルバム「フルーツ」解説
TEXT:佐野元春

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プロローグ
アルバムの始まりに聞こえる小鳥の声。これは、僕の家の庭で収録したものだ。1996年3月のある日の早朝。庭にテープ・レコーダーをセット。その周りに米を蒔いて、小鳥がさえずるのを待った。このアルバムは、僕の庭から始まる。


インターナショナル・ホーボー・キング(3'32)
The International Hobo King
鐘の音に続いて、変なモジュラー音。遠くの電波に周波数を合わせる。曲の始まり。バンドがいっせいに音を奏でる。途中、変な転調。自分が何のキーで演奏しているのかわからなくなる。どうにか元に戻って、コーラス部。叫ぶ、僕とセクストン・シスターズ。窪田晴男の弾くギターがここぞとばかりに出てくる。あとはカオス。パーカッションとキョンの弾くピアノが余韻を飾る

Vocal,Guitar,Keys:佐野元春
Drums:小田原 豊
Bass:井上富雄
Guitar:窪田晴男
Acoustic Guitar:吉川忠英、安田裕美
Piano:KYON
Percussion:里村美和
Backing Vocal:Melodie Sexton、Sandi Sexton



楽しい時(4'07)
Fun Time 
曲は、僕が弾くエピフォンのセミ・アコースティック・ギターから始まる。楽しいボ・ディドリーのリズム。間奏では、ストリングスを大きくフィーチャーする。ストリングスの編曲は、井上 鑑氏。途中、ビートルズの「マーサ・マイ・ディア」のフレーズが聞こえる。これはご愛敬。続いてスカパラ・ホーンズ、トロンボーン北村君のソロ。後奏のなか、メロディー・セクストンのごきげんなアドリブ。メロディーの笑い声、ぼくが遠くでバンドに「Great! OK!」。シングル盤では、このパートは省いた。続いて、レコーディング中の悪ふざけ。僕はローディーが履いていた靴をとりあげて、パーカッションがわりに床をたたく。エンジニアの坂元君は、ブラシで、そこにあった銀箱を擦り、ギロのかわり。ギタリストの佐橋君、自慢のバンジョーを弾く。演奏中、みんな笑いをこらえるのに必死。

Vocal,Guitar:佐野元春
Drums:小田原 豊
Bass:井上富雄
Guitar:佐橋佳幸
Acoustic Guitar:吉川忠英、安田裕美
Wurlitzer:西本 明
Piano:斉藤有太
Percussion:里村美和
Horns:スカパラ・ホーンズ(from 東京スカパラダイス・オーケストラ)
Strings Arrangement:井上 艦(featuring 金原千恵子グループ)



恋人達の曳航(3'00)
Lovers Sailing
西本君の弾くウイリッツアー・ピアノから始まる。何と、この曲のなかで、テンポが三回変わる。テンポの変わり目にはハープを効果的に使った。コーラスの部分。自分で3声のハーモニーを試みる。ハーモニーの録音はたいへんだった。恋人たちの未来に寄せた曲。歌詞を映像的に組み立てた。聴く人が自分の映画を創ってくれたらいいな。

Vocal,Guitar:佐野元春
Drums:小田原 豊
Bass:井上富雄
Guitar:窪田晴男
Acoustic Guitar:佐橋佳幸
E.Piano:西本 明
Percussion:里村美和
Cello Arrangement:井上 鑑



僕にできることは(3'57)
Things I could do
このギター・リフ。自分でも結構気に入っている。けれど、もっと気に入っているのは、間奏中、このギター・リフとストリングスのメロディーが絡み合う部分。曲のエンディングの間際、インド音楽的な音階を、ギターとストリングスが手をつなぐようになぞる。僕とセクストン・シスターズ。元気いっぱいに唄う。

Vocal,Guitar,Keys:佐野元春
Drums:小田原 豊
Bass:井上富雄
Guitar:窪田晴男
Backing Vocal:Melodie Sexton、Sandi Sexton
Strings Arrangement:井上 艦(featuring 金原千恵子グループ)



天国に続く芝生の丘(3'14)
Grass Valley to Heaven
3拍子のワルツ。今までにたくさん曲を書いてきたけれど「ワルツ」は珍しい。曲の始まり、リハーサル中の僕のカウントが「いいカンジ」だったので、採用。編曲的には、チューバやアコーディオンといった、普段使わない楽器を取り入れた。特に、キョンの弾くマンドリンがいい。間奏中、僕の弾くブルース・ハープとぐるぐると回るメリーゴーランドの音。この音をステレオの左右にふって、メリーゴーランドが回っているようなイメージを作った。曲のテーマは「結婚」。聴く人が、曲を映像化しやすいように言葉を組み立ててみた。

Vocal,A.Guitar,Keys,Harmonica:佐野元春
Drums:小田原 豊
Bass:井上富雄
Guitar:窪田晴男
Mandolin:KYON
Percussion:里村美和



夏のピースハウスにて(インストルメンタル)(1'50)
At The Peace House in Summer
前曲「天国に続く芝生の丘」から続くインストルメンタル曲。前曲とのつなぎめには、僕と、ベーシスト井上君で小さなブリッジを演奏した。曲はオーケストラのピチカートから始まる。オーケストラの編曲は井上鑑。自分のレコードでオーケストラを採用するのは、アルバム「スロー・ソングス」以来、久しぶりだ。二年前の夏、神奈川県にある「ピースハウス」という名のホスピスで人生の最期を過ごした僕の母に、この曲を捧げた。

Strings Arrangement:井上 鑑、佐野元春
Bass:高水健司
Strings:金子飛鳥グループ※
※by the courtesy of BMG VICTOR,INC.



ヤァ!ソウルボーイ(3'19)
Yah! Soul Boy
僕のフェンダー・ジャズ・マスターから始まり、ドラマー、小田原君のスネア・ピック・アップでバンドが入ってくる。間奏では、ギタリスト、佐橋君のすべるようなソロ。同じ情感で、転調後のパートでもいいソロを弾いてくれた。95年の冬、アメリカ、ボストン郊外に位置するスモール・タウン、ローエル市にて。ジャック・ケルアックの墓参りをした時にインスピレーションを受けて書いた曲。

Vocal,Guitars:佐野元春
Drums:小田原 豊
Bass:井上富雄
Guitars:佐橋佳幸
E.Piano,Organ:西本 明
Percussion:里村美和
Backing Vocal:Melodie Sexton
Horns:スカパラ・ホーンズ(from 東京スカパラダイス・オーケストラ)



すべてうまくはいかなくても(3'28)
The Night
イントロはなし。急に僕のボーカルから始まる。ギタリスト、佐橋君が、12弦ギターを使って、いいリフを弾いている。間奏中は僕のブルース・ハープ。言葉、メロディー、演奏のバランスがうまく取れて、この曲が完成したときにはうれしかった。

Vocal,Guitar,Keys,Harmonica:佐野元春
Drums:小田原 豊
Bass:井上富雄
Guitar:佐橋佳幸
Piano:西本 明
Percussion:里村美和



水上バスに乗って(3'23)
Water Line
曲が始まる前に聞こえるのは、東京、日の出桟橋埠頭あたりの水鳥たちの声。演奏はプレイグス。間奏中、ギタリスト、深沼君がソリッドなソロを披露している。彼は全編にわたってハーモニーもつけてくれた。今までたくさん曲を書いてきたが、実際の地名を歌詞に採用したのは初めてだ。このレコーディング中、僕はよく、日の出桟橋から水上バスに乗って、下町、浅草に行った。

Vocal,Guitar:佐野元春
Drums:後藤敏昭(Plagues)※
Bass:岡本達也(Plagues)※
Vocal,Guitar:深沼元昭(Plagues)※
E.Piano,Organ:西本 明
Strings Arrangement:井上 艦(featuring 金原千恵子グループ)
※by the courtesy of east west japan inc.



言葉にならない(3'35)
I can't say anything
セッション中、比較的早い時期に録音された曲。この曲でのベーシスト、有賀君のプレイは秀逸だ。また、ギタリスト窪田君がブルージーな解釈を加えてくれたおかげで、少ない編成の曲ながら、表情の豊かなものになった。間奏中のオルガン・ソロは自分で弾いた。

Vocal,Organ:佐野元春
Drums:小田原 豊
Bass:有賀啓雄
Guitar:窪田晴男
Percussion:里村美和



十代の潜水生活 (アルバム・バージョン)(3'04)
Teenage Submarine
このロックン・ロール・トラックは、セッション中、比較的早い時期に収録された。歌詞の2番に登場する、「Big Fat Mama」は、僕の曲ではおなじみの登場人物。間奏中、スカパラ・ホーンズが、いい雰囲気を作っている。同様に、キョンの弾くブギー・タッチのピアノ・プレイが秀逸だ。国内で、このエリアのピアノを弾いて彼の右に出るものはいない。十代の潜水生活。僕は十代ではないが今だに潜水生活している。

Vocal,Guitar:佐野元春
Drums:小田原 豊
Bass:有賀啓雄
Guitar:窪田晴男
Organ:西本 明
Piano:KYON
Percussion:里村美和
Horns:スカパラ・ホーンズ(from 東京スカパラダイス・オーケストラ)
Backing Vocal:Melodie Sexton、Rosalyn Keel



メリーゴーランド(2'19)
Mama - Like A Merry-Go-Round
曲の前に遊園地の音が聞こえる。これは、このアルバムに収録した曲、「天国に続く芝生の丘」の一部分をリミックスしたもの。映画で言えば、フラッシュバックの役割を持たせた。曲は、友人のヒロ・ホズミが書き、僕が言葉をつけた。

Co-Produced byヒロ・ホズミ
Vocal,Guitar,Keys:佐野元春
Drums:小田原 豊
Bass:井上富雄



経験の唄(4'24)
Song of Experience
ドラムス、ピアノ、ベースの3人で演奏し、後に、僕が他のオーケストラ的要素を付け加えた。全体的にウイリッツアー・ピアノの音が特徴的だ。間奏中、井上君がベースで美しいメロディーを弾いている。厚い雲に光がさえぎられていく様子をイメージした音、ここで聞こえる子供たちの声は、近所のプールサイドで録音したものだ。この12小節を作るのに、一週間かかった。他にも、海の音、ジェット戦闘機が飛び立つ音など、いろいろな現実音を入れた。この曲は、聞いてくれる人によって、描く景色はさまざまだろうと思う。いづれにしても、視覚的なイメージを広げてくれたらうれしい。アルバム中、もっとも穏やかで、もっとも美しい曲となった。

Vocal,E-Piano,Guitar:佐野元春
Drums:阿部耕作(The Collectors)※
Bass:井上富雄
Backing Vocal:Melodie Sexton、Rosalyn Keel
※by the courtesy of TRIAD / NIPPON COLUMBIA Co.,LTD.



太陽だけが見えている- 子供たちは大丈夫(3'56)
Be Twisted - Kids are All Right
前半の詩は、83年に発表したアルバム「No Damage」のライナーノーツに掲載した「KIDS」という詩が土台になっている。この詩に曲をつけてほしいというファンの方たちからの要望もあって、今回実現した。間奏中、ちょっとクレイジーなソロをとっているのは、スカパラ・ホーンズのGAMOUだ。作曲・編曲は、ヒロ・ホズミと僕の共作。ヒロ・ホズミとはニューヨーク時代、85年に発表した「ビジターズ」アルバムで一緒に仕事をした仲だ。「Just A Same Old Songー昔ながらの変わりばえしない歌」をキーワードに書いた。

Co-Produced byヒロ・ホズミ
Vocal,Organ:佐野元春
Drums:小田原 豊
Bass:井上富雄
Percussion:里村美和
Horns:スカパラ・ホーンズ(from 東京スカパラダイス・オーケストラ)
Saxsophon Solo:Gamou(from 東京スカパラダイス・オーケストラ)



霧の中のダライラマ(1'00)
DalaiLama
ねじれた音、「Just A Same Old Songー昔ながらの変わりばえしない歌」の中から、小田原君のドラムがフェイド・インしてくる。新聞を読んでいたら、チベットの独立に絡んで、現在2人のダライラマがいて覇権争いをしていると書いてあった。おもしろいと思ってこの曲を書いた。

Vocal,Guitar,Piano:佐野元春
Drums:小田原 豊
Bass:井上富雄
Guitar:佐橋佳幸
Piano:西本 明
Percussion:里村美和



そこにいてくれてありがとう - R・D・レインに捧ぐ(2'41)
Thank you for being there - Dedicated to R.D.Rain
はじめは、1曲にするつもりはなく、曲のつなぎ用に作ったものだが、セッションをしているうちにいい具合にまとまっていった。それだけでなく、たちまち、バンド・メンバーのもっともお気に入りの曲となった。後奏の中、ギタリスト佐橋君がいいカンジでソロを弾いてくれている。西本君は、アイルランド・ケルティック音楽的な音階で楽しいメロディーを弾いている。クレジットにある、 R・D・レインは、精神科医であり、文学者でもあるアメリカ人。有名な著作に、「結ぼれ」、「引き裂かれた自己」がある。僕の愛読書でもある。

Vocal,Guitar,Piano:佐野元春
Drums:小田原 豊
Bass:井上富雄
Guitar:佐橋佳幸
Piano:西本 明
Percussion:里村美和



フルーツ - 夏が来るまでには(2'50)
Fruits - Summer come we will
セッション中、最後に録音した曲。アルバム・タイトル・ナンバーでもある。最初のドラの音は、いくつかのサンプル音をコンバインしたものだが、ぼくの住んでいる町で、毎日夕方六時になると聞こえてくる、近所の寺院の鐘の音をイメージした。途中、同じ台詞が二回重なる部分があるが、これは、アシスタントのミス。しかし、思わぬ効果があったのでそのままにした。僕の仕事の流れで言えば、「リアルな現実、本気の現実」、「ブルーの見解」、「二人の理由」、「廃虚の街」に続く、ポエトリー・リーディング表現の曲。ボーカル録音のとき、リラックスするために、スタジオにソファ・セットを持ち込み、だれかの家のリビング・ルームで唄っているような雰囲気を作った。

All Instruments & Performed:佐野元春
Bass:井上富雄



エピローグ
アルバムの終わりに聞こえる小鳥の声。これは、僕の家の庭で収録したものだ。1996年3月のある日の早朝。庭にテープ・レコーダーをセット。その周りに米を蒔いて、小鳥がさえずるのを待った。このアルバムは、僕の庭で、終わる。