09 | 第一期マガジン「THIS」
1982 -1983



 日本のポップ・ミュージックにジャズ・テイストを持ち込んだのが佐野元春であるなら、同じようにヒップ・ホップ・カルチューをいち早く融合させたのも佐野元春だった。

 佐野元春は、常に誰も手を触れていなような新しいことにトライしてきた。その後、カセットマガジン、ポエム・リーディング、自主レーベルの設立など、さまざまな未知の分野に挑むことになるが、その先駆けとも言えるのが、アーティストである自らが雑誌を編集・発行するということだった。

 そしてその結果生まれたのが「THIS」マガジンだ。創刊号は1983年7月に発行され(定価480円)、以降、隔月ペースで発売されることになるが、どの号も佐野元春がデビュー以来提唱し続けている《BEAT》、《COOL》、《INDIVIDUALISM》といったイディオムで貫かれていた。

 松任谷由実、桑田佳祐といったミュージャンや、漫画家の江口寿史などの各界の著名人との対談に加え、新進気鋭のカメラマン、イラストレーターを紹介するなどの手の込んだ内容は、アーティストの作る雑誌という枠を超え、佐野元春を知らない一般の読者にも愛された。

 しかし、諸事情により「THIS」マガジンは、翌84年2月に発売された第4号を持って惜しくも休刊。ただし、約2年後の86年4月にはサイズやデザインを変えた新創刊号が発売されることになる。

 好奇心旺盛な編集者としての佐野元春を垣間見ることのできる貴重なマガジンだ。

(岩本晃市郎)



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