09 | ライヴ・アルバム
1986 -1988



『HEARTLAND』と名付けられた1988年7月に発表された佐野元春初のライヴアルバムは、バンド、ハートランドとのデビューから8年間の歩みを収めたものだ。

  Heartland

 1987年9月15日に行なわれた横浜スタジアムでのライヴを中心とした全15曲のうち2曲は、同年5月28日の渋谷公会堂での収録。当初は単なる記録としてMTR(マルチトラック・レコーダー)に残されていたライヴ・テイクから、「ガラスのジェネレーション」「ニューエイジ」「ワイルド・ハーツ」「君をさがしている」を仕上げてゆくうちに、佐野自身、ハートランドにとって非常に重要な意味を持つ作業に思えてきたとのだと、当時のライナーノーツ「ハートランドからの手紙#30」には記されている。

 当然のことながら、ここにある全15曲はスタジオ・レコーディングされた音とは表情が異なる。「アンジェリーナ」はファンク的要素が強く、「ガラスのジェネレーション」はスロー・バラードに生まれ変わった。「コンプリケーション・シェイクダウン」はオリジナルの打ち込みサウンドとはうって変わり、生音にこだわったサウンドになっている。

 現在、ホーボー・キング・バンドで演奏される時代の音を取り入れたアレンジと聞き比べてみるのも一興かもしれない。リアレンジされたこのライヴ音源を耳にすると、ハートランドというバンドの変遷が改めて浮き彫りにされている。多彩なホーン・セクションとバンド・サウンドのぶつかり合いから、演奏のダイナミズムが大きなうねりとなって聴く側に跳ね返ってくる。

 そのことを象徴するのが「99ブルース」。80年代までに出揃った音楽のさまざまな形態(ジャズ、ファンク、スカ、R&B、ロックンロール等)を違和感なく融合することに、しかもライヴというミュージシャンが最も真価を問われる場で成功しているのである。

  何よりもそういったライヴの場を追体験したような気分に今でも十分にさせてくれるのは、多くのミュージシャンがライヴ・アルバムを制作する際、オーヴァーダビングを施してしまうのに対し、佐野元春は一切それを行なわなかったことに起因する。歌詞を間違ってしまっても、演奏にミスや粗さがあったとしても、その日その時にしか生まれなかった瞬間を大切にしたからこそ、優秀なライヴ・アルバムとして手に出来るのだ。

 このライブ・アルバム『HEARTLAND』の他に、2000年現在までに正規にリリースされている佐野のライブ・アルバムは、ザ・ハートランドの解散時に編集された3枚組みCDセット『The Golden Ring』がある。

Golden Ring

(東 雄一朗)



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