「エイズには知るワクチン」。そんなコピーでも知られるAAA(アクト・アゲインスト・エイズ)は、エイズについての啓蒙活動を続けている非営利団体で、世界中でエイズ問題が深刻視されていた1993年秋に日本の音楽事業者の総意により設立された。そして世界エイズデーにあたる12月1日には国内の複数の会場でチャリティ・コンサートが開かれることになり、横浜アリーナ公演のプロデュースを佐野が担当した。
ソウル・フラワー・ユニオンの中川とのデュエット
(Photo: 岩岡吾郎)
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その佐野から制作の協力を依頼され、ぼくも手伝わせてもらうことになった。出演アーティストの選択・出演依頼・当日の構成etc.の一役を担い、個人的にはコンサートを作ることがこんなにも楽しいことなのか、ということを肌で知る絶好の機会となった。
たとえばこんなことがあった。佐野はあるバンドにコンサートへの出演をお願いしにいく。だが バンド側の「チャリティー」に対する見解の相違から途中で交渉を諦めることに。帰りのタクシーの中で、佐野はこう呟いていたものだ。「ぼくから彼らに言えることがあるとすれば、どうか観念の中で収束しないでほしい、ということだけだね……」そのひと言は何かと頭でっかちなぼく自身への問いかけとして受け取った記憶がある。
佐野の呼びかけに呼応したアーティスト達は、出演順に東京スカパダライス・オーケストラ、バブルガム・ブラザーズ、ビブラストーン、CHARA、吉田美奈子、清水靖晃、佐野元春&ザ・ハートランド、そしてソウル・フラワー・ユニオン。この日、佐野はザ・ハートランドと共に『New
Age』、『Shame〜君を汚したのは誰』、『インディビジュアリスト』 を演奏。また、ソウル・フラワー・ユニオンとともに、ルー・リードのカバー曲『We're
Gonna Have A Real Good Time Together』を演奏した。全体の模様は実は密かに映像に撮られ、編集済みの1時間強の作品が残されている。いつか放映される機会があるといいのに、と思う。
AAAの活動は今も続いている。収益の一部はHIV教育を目的としたテキストブックの制作と配布にあてられている。「エイズは愛する人とのコミュニケーションを図り直す、哲学的なテーマでもあると思うよ」佐野は当時、そんな風にも話していた。彼の言葉を思い出したりしながら、ぼくは今そのテキストブックの編集を手伝っている。
●参考資料
イベント用パンフレットに寄せた佐野のコメント「ハートランドからの手紙#71」