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『フルーツ』レコーディング日誌
「Diary ─ Studio Days」
1995-1996



 本書(PARCO出版/1,800円)は雑誌『THIS』に連載された、佐野自身による日記をまとめたものだ。日記の開始は95年4月12日。そして終わりは96年4月24日。副題に「making of Fruits」とつけられたこの本は、一通り読めば「アルバム制作の1年間」を追随することができるドキュメンタリーでもある。

 まったくゼロからのセッション開始。ミュージシャンの顔触れ。バンドが仲間となっていく過程。そして若手との交流……。その歩みは、日々のスピードがもどかしいくらいに動き回っている佐野の素顔が読み取れる。なおも、時折まぜられるプライベートな一面をのぞかすエピソードが、彼の休息を教えてくれるようで楽しい。

 しかし、創作の苦しみが俄然、本書の通底を流れている。セッションの動きが活発になるや、その筆致にも緊張がみなぎってくる。アルバム制作を分断して出かけた全国ツアー「International Hobo King Tour」の頃合いになると、ロードの厳しさが加わることで佐野の思考や行動を追尾するのにヘトヘトになるかもしれない。すさまじく駆けている――それが本書を一口に言い表す言葉だ。

 ツアーが終わってもスタジオに舞い戻る日々。作業も大詰めをもって、日記にも新作について語る言葉が増えてくる。そこでは、レコーディング・アーティストとしての誠実な姿勢が作品に投影されていることを知らせている。日記は当然、すべての作業が完了したところで終わる。タイトルに『フルーツ』と名付けた意図を知ることで、読者は「1年」の素早さと重みを体現できるだろう。

 普段はあまり見る機会の少ないスタジオ内でのショットも豊富である。アルバム・レコーディングという「希有」な時間と空間をファンの我々に共有させてくれる、まったく「希有」なノン・フィクションと呼んで間違いない。


(増渕俊之)



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