03 | iTunesMusicへの接近 2005-2006

 アップルが運営するオンライン上の音楽ショップ「iTunes Store」(「iTS」。当初はiTunes Music Store)。佐野元春は2005年8月、二つの作品を立て続けにこのショップから、ネット配信のみでリリースした(12月にはDaisyMusicからCDが発売された)。


 ひとつは『THE SUN STUDIO EDITION』。前年に発表されたアルバム『THE SUN』収録曲のフル・バージョン3曲と「タンポポを摘んで」と題されたアウト・テイク1曲、そして以前にネット上でデモ・バージョンを配布した「光」の“ファイナル・バージョン”を収めたミニ・アルバム。そしてもうひとつは『THE SUN LIVE AT NHK HALL』。その名の通り、2005年2月に行われたツアー千秋楽の様子を収めたライブ・アルバムである。


 いずれもアルバム『THE SUN』を補完する意味で興味深いリリースだが、中でも『STUDIO EDITION』に収められた「光」は2001年9月の同時多発テロの直後、ネット上で無料配布されたものだ。困難な世界で生き続けることへの祈りが込められ、『THE SUN』の背景となる重要な作品だが、それがネットワーク上でファイナライズされた意味は大きい。


 佐野元春はもともとインターネットが一般に認知されるはるか以前から自分のサイトを開設し、その後もデジタル・アート・ピース『僕は愚かな人類の子供だった』のネット配信、ネット上での販売に特化したインディペンデント・レーベル「GO4」の運営など、メディアとしてのインターネットに深くコミットしてきたアーティストであり、こうした形で商業ベースの音楽配信にもいち早く興味を示したのは当然のことだった。


 佐野はこの後もiTSで「MusicUnited.」名義の「世界は誰の為に」(アルバムとは別バージョン)をリリースしたり、アルバム『COYOTE』の予約特典に「じぶんの詩」を配布したりと、自らの作品のネット配信に対して意欲的な取り組みを続けている。

(西上典之)

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