6月3日青山で待つ。−どこかで見たフレーズだ。DaisyMusicのプレス向けパーティの情報を得たmofa編集部は、前日の夜こんなメールを出した。「関東ローカルmofaメンバーの皆さん。明日、パーティ会場の入口に集まりませんか。レーベル発足のお祝いと応援のメッセージを元春に届けたいと思います。お近くの方はぜひ青山へ!待ってます」元春の新たな門出をmofaメンバーみんなでお祝いし、陰ながらではあるがせめて近くで声援を送りたい。しかしこんなショートノーティスでどのくらいの人が集まってくれるだろうか。メールに願いを込め送信した。


会場エントランスには「MOTOHARU SANO and THE HKB/SECRET GIG」とサインボードが掲げられていた。ギグ?ということは...。高鳴る期待と夕べの不安が交錯してもうどうにかなりそうで、何とも落ち着かない。ここはもともとオリエンタルなレストラン。曲線を描いた長いカウンターでは料理とドリンクが振る舞われている。奥にはステージが作られ楽器がスタンバイ、客席最後尾にはPAと、まさに小さなライブ会場と化していた。薄暗く洒落たムードの中、招待客が少しづつ集まりはじめ、ドリンクを片手に思い思いに歓談している。「ギョーカイ」の匂いが立ちこめた独特の雰囲気に圧倒されそうになりながら、これからここで輝かしい瞬間を目撃するんだという高揚感を支えに隅っこで不安と闘った。時間が過ぎるにつれどんどん集まる人、人...用意された椅子席はすぐに埋まり、会場内はほとんど動ける隙間もないくらいの人で溢れ返った。椅子席の周りにはその何倍もの人数がスタンディング、押し合いへし合い状態でパーティのはじまりを待ち構えていた。

司会の赤坂泰彦氏が開会を宣言、声高らかに元春とHKBを紹介した。そして予想外にパーティはいきなりライブでスタート!白地に黒のストライプのジャケット、サングラス姿の元春は、ステージで光に包まれた。最初は『So Young』、ビートの効いたアレンジにのせて元春はタンバリンを手にシャウト。「今日は友人が新しいレーベルを作るっていうから来たんだ。面倒なことはやめろって言ったのに、きかなかった」おどけた元春の台詞が楽しい。テレビカメラ4台に見つめられながらも余裕の元春、貫録である。その後立て続けに5曲を演奏した。最近ではなかなか生で聴くことのできない『Back to the Street』はほぼオリジナル・アレンジで披露。「Back to the Street」は、「活動開始宣言 Let's rock and roll」のベースを成す重要な言葉だ。再び路上へ!この曲をセレクトした元春の決意がハートにドンと届く。今夜のパーティにぴったりの『ハッピーマン』では元春のタンバリンも最高潮。どの曲もファスト・8ビートで、思わず体が縦揺れしてしまうクールでいかしたパフォーマンスにため息の連続。こんなスペシャルな空間でもったいないまでのミニライブ、現実感が希薄でちょっとした夢見心地だった。ライブ終了後の場内は文字通りヒートアップ。次のプログラムに進む前にしばしクールダウンの時間があったほどだ。

赤坂氏が、「先ほどの『スターダストキッズ』にありました「この街のノイズに乾杯!」で乾杯の音頭に代えさせていただきます」とリスタート。彼の始終小気味よいMCにパーティがぐっと盛り上がったことは言うまでもない。ビデオレターがスクリーンに映し出された。爆笑問題のコメントに会場は大笑い。赤坂氏も「佐野さんをネタにできるとはよっぽどファンなんですねぇ」と感心していた。野茂英雄選手からは彼らしい飾らない言葉で、チャレンジする人間の背中を押してくれるような曲をこれからも作ってくださいと語った。彼は今でも投げる前に『彼女の隣人』を聴いているのだろうか。

ここで、黒シャツ・黒キャップに衣替えした元春とHKBの面々が会場に再入場、拍手で迎えられ最前列に着席した。ステージに向かって左から元春、拓夫さん、井上さん、佐橋さん、古田さん、KYONさん。元春とHKBが見守る中、来賓としてユニバーサルレコード社長の石坂氏が挨拶された。元春への賛辞と信頼の言葉に、これからの力添えの確かさが感じられた。それに応えて元春は帽子をとって一礼。続けてビデオレターが2本。ジョン・サイモン氏からはセルフ・レコーディングの映像で、元春に惜しみないエールを贈っていた。最後に口ずさんでいた「Here comes the sun〜」が印象的にフェイドアウト。そして大滝詠一氏。ほとんど映像ではお見掛けしない氏はやっぱり声だけで「佐野君にてんぷらごちそうになってその後にビデオレターお願いしますってきたんだよね...」撮影を拒む大滝氏が最後にとうとう画面正面にある椅子に座ったかと思いきや、カメラが大揺れ「地震じゃないのー?」ビデオレター完。会場は大爆笑でどよめいた。

そしていよいよ新レーベル「DaisyMusic」の全容が明らかにされた。ロゴがスクリーンに映し出され、赤坂氏がレーベルのコンセプトを紹介。「夢見る力をもっと」そんな日常では忘れてしまいそうな大事なことを元春はすくいとってくれるのだ。このキーワードを思うと『フルーツ』の詩が頭をよぎる。DaisyMusicで間違いなく僕らはもっと幸せになれる。予測されていたことなのかシンクロニシティなのか、今の状況を髣髴とさせる。あの優しいメロディが不思議と沸き上がってきた。さらにDaisyMusicは、CoolでCreativeでCourageousでDynamicを目指す!このCCCDで会場は笑いの渦、元春のちゃめっ気に実に爽快な気分であった。リスナーの信頼を得られるようなレーベルにしたい、リスナーとミュージシャンはもっといいものをシェアできると歯切れよく語る元春の気持ちが何より嬉しいし感謝したい。

その後アルバム「THE SUN」の紹介を終え、質疑応答となった。元春はステージに上がり、プレスからの質問に丁寧に答えていた。その内容は、ファンクラブ誌カフェ・ボヘミアのインタビューで語ってくれていたこともあってちょっと嬉しくなった。HKBからも一人ずつ挨拶があり、喜びとともにこれからの意気込みを見せてくれた。ライブへの期待感がますます膨れ上がる!

元春はエピックに対する思いを訊かれ、「見い出してくれてありがとう、そして開放してくれてありがとう」と表現。本当に素直な気持ちなのだと思う。しかしこの簡単ながら奥深い台詞はたぶん元春にしか言えないのではなかろうか。言葉の重みを踏み台に力強く進化する元春がそこにいる、頼もしい限りだ。今日のパーティの気分は?の赤坂氏の問いに「レッツ・ロックンロールって感じかな」と返してトークセッションも無事終了。元春の表情は晴れやかだった。

さて、冒頭のmofaメンバーによる応援メッセージ企画。会場内のパーティは中盤に差し掛かったころであろう午後8時。メッセージ用紙、ペンなどを用意して集合場所に行くと、すでに数人が集まっていた。
「元春の新レーベルでの旅立ちをメッセージに託して届けたい」−その純粋な気持ちだけで会場前に集まってきたmofaメンバーの思いは、会場内にいた数百人の音楽関係者の元春に対する気持ちに決して負けていない。そこにあるのはこれまで元春の活動に勇気付けられてきたファンの感謝の表れであり、今日という旅立ちの日を元春と共有したい思いであり、そして今後の元春へのさらなる期待である。
メールに記載した集合時間午後8時30分が近づくにつれ、mofaメンバーは次第に増えていく。仕事帰りに寄ったという感じの人もいる。定刻には50人を超えるが、まだまだ人は増えてくる。そう、メッセージを書き終えた人たちも帰ろうとはしない。もちろん、「ひょっとして元春本人が現れるんじゃ…。」という期待のためである。
そんなmofaメンバーの思いを知ってか、マネジメントの人が会場外にファンがたくさん集まってきている旨を元春に伝えてきてくれたらしい。そして元春は僕らの前に姿を現した。元春が現れると、待っていたファンは彼を取り巻くように集まった。

「ミュージシャンが作り出す作品をそれを欲するリスナーのもとにいい形で届く仕組みを考えていかなくちゃいけない。」元春が常々言っている言葉である。その思いがある限り、プレス向けのパーティを実施したとして、その先に見えているのはわれわれファン・リスナーであるはず。元春の登場はそんな思いが結実した瞬間だった。

ライブ最前列でもありえない、もう目の前数十センチに元春がいる。手を出して握手するものもいた。マイクもない、まさに肉声で元春がコメントする。

「今日はプレス向けのクローズドなパーティだったんだけれどもこうしてファンのみんなが集まってきてくれてとてもうれしいです。どうもありがとう。これからの僕のレーベル、『DaisyMusic』っていうんだ。応援よろしくね。」
mofaメンバーは一言も聞き漏らさないようにという思いと、あまりに近づきすぎている興奮とで声も出ない様子。元春の一言一言にうなずいていた。
元春がわれわれの前に姿を現していた時間は数分であろうが、非常に長い時間にも感じられ、またほんの一瞬にも感じられるような、そんな不思議な感覚であった。元春が帰った後も興奮冷めやまぬmofaメンバー、「握手しちゃったよ」「カッコよかったね」口々に話している人もいれば、「佐野さん、さっき何しゃべっていたんですか?」とスポーツ紙の記者に尋ねられている人もいた。

集まったmofaメンバーの思い、そしてこの日は集まれなかった全国のmofaメンバーをはじめとしたファンの期待を元春はしっかりと受け止めてくれたに違いない。

ところで元春は狙っていたのか、それとも偶然だったのか、この日は満月だったのだ。やはり今日でなければいけなかったのかと妙に納得するに足る綺麗な月。満月に祝福された元春の新しい航海、今夜の月は格別だった。大きく羽ばたきはじめたDaisyMusicと元春を心から応援したい。





「mofaでは皆さんの参加をお待ちしています。詳しい情報はこちらをご覧ください」



構成・テキスト:webCb編集部 奥山千亜紀 / 山田和弘
デザイン&撮影: コヤママサシ