Moto's Wire INTERVIEW | File 01

高見広春 Portrait 高見広春


Interviewer : 吉原聖洋

写真:岩瀬陽一 ─ 元春の音楽を聴き始めたのは大学生の頃だそうですね。

高見
 ええ。大学一年の秋だったと思います。僕は遅れてきたファンなんです。高校の頃から周囲の友達にもファンがいたし、実際に耳にしたりもしていたのですが、その頃は「これが佐野元春という人なのか」という認識しかなかった。だけど大学一年のときにラジオで「アンジェリーナ」「ガラスのジェネレーション」「サムデイ」の3曲を聴いて、改めて衝撃を受けました。

─ 衝撃的だったというのは?

高見
 言葉と音楽の組み合わせだと思います。僕はそれまで日本語のロックやニュー・ミュージックには一種の違和感があって、さほど興味が持てなかったんです。でも佐野さんの詞と曲の組み合わせはとても美しかった。僕が想像もしていなかったチャーミングな日本語の表現がそこにあったんです。

─『バトル・ロワイアル』の巻頭には「愛することってむずかしい」という一節が掲げられていますが……。

高見
 あの一節が小説の内容に本当にピッタリかどうかはわかりませんが、僕が佐野さんのファンだということを示すために引用させてもらいました。

─ 主人公の七原秋也くんはいろいろな意味で元春を連想させるのですが、これは偶然でしょうか?

高見
 身長が170cm、というところは佐野さんを意識しました。

─ それから、秋也くんの誕生日は10月13日(元春の誕生日は3月13日)だし、ミュージシャン志望だし、髪にはウェイヴがかかっているし……。

高見
 なるほど。たしかに意識していますね(笑)。

─ ボブ・ディラン、ヴァン・モリスン、ブルース・スプリングスティーンなど、『バトル・ロワイアル』の中に登場するロック・ミュージシャンの名前には元春とリンクするものが多いですね。

高見 それはやはり佐野さんに教えてもらったミュージシャンばかりですから。僕は佐野さんがラジオやエッセイで紹介していた洋楽をずっと聴いてきたし、実際にそういう少し古い音が好きなんです。ただ、僕は小説の中で匂わせているほどロックに造詣が深いわけではありません。佐野さんの音楽が大好きで、その周辺の洋楽も聴いている、という程度のロック・ファンです。

─ 高見さんは以前に「エンターテインメントにこだわりたい」と発言されていましたが、『バトル・ロワイアル』はただそれだけの作品ではありませんね。さまざまなメッセージがそこにはある。

高見 俗っぽいエンターテインメントだけど、自分にとって大事なこともたくさん書いてある、というのが理想ですね。僕が影響を受けた初期の菊地秀行、矢作俊彦、スティーヴン・キング、ロバート・パーカーといった作家たちの小説もそうだし、最良のポップ・ミュージックというのもそういうものだと思っています。

─ それは元春のアティテュードにも似ていますね。

高見 いや、そんなふうに同列に並べていいようなものかどうかはわかりませんが、佐野さんの作品からは本当にいろいろなものを受け取りました。ひと言で表現すれば、僕が漠然と考えていたことを佐野さんが明確にしてくれた、ということだと思います。佐野さんがそこにいてくれたからこそ僕が今ここにいるわけですから。

─ 最後に元春へのメッセージをお願いします。

高見 佐野さんと同時代に生きて、その音楽をリアルタイムで聴くことができた幸運に感謝しています。「イノセント」に対するオウム返しのようになってしまいますが、いろいろな意味で、本当にありがとうございます、ですね。

取材協力:太田出版
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