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─ 佐野元春の音楽を初めて耳にしたのは?
小沢 1980年の夏だったと思います。ラジオの深夜放送で「アンジェリーナ」を聴いたんです。あのイントロから引き込まれて、翌日、さっそくアルバム『バック・トゥ・ザ・ストリート』を買いに行きました。
─ ライヴの初体験は?
小沢 翌年の春、マンガ家としてのデビューが決まって、東京の出版社を訪ねたとき、佐野元春のファンだって言ったら、編集者の方がルイードに連れていってくれたんです。終演後、楽屋にも連れていってもらって、佐野さんにもご挨拶できました。
─ その後もライヴにはよく行かれたのですか?
小沢 当時は札幌に住んでいたので、佐野さんがツアーで北海道に来られたときにはいつも観に行っていました。佐野さんと銀次さんと一緒に3人で写真を撮らせていただいたこともあるんですよ。
─ 当時、元春の音楽からどんな影響を受けましたか?
小沢 私のデビュー作『指輪物語』(講談社)には佐野さんからの影響がストレートに表われています。主人公の飼っている2羽の鳥の名前はハートとビートだし、「SOMEDAY」の“Happiness & Rest”という一節をお借りしているし、そもそも主人公の恋人の名前がトモハルですから(笑)。
─ 元春の音楽のどこが魅力的だったのでしょう?
小沢 歌詞が大好きでした。だから、ずっと言葉に惹かれていると思っていたのですが、その後の『ビジターズ』のヒップホップ的な曲調が苦手だったところを見ると、やはりメロディにも惹かれていたんですね。つまり、眼の前に映像が浮かぶような歌詞とメロディ。3分間で映画を見せてくれるような、ドラマティックなところが魅力的だったんだと思います。だから初期の作品が特に好きなんです。
─ 歌詞とメロディのバランスが大切なんですね。
小沢 ええ。歌詞だけでもダメだし、メロディだけでもダメ。最近の若い世代のバンドでも「いいな」と思う人たちはいるのですが、いくら音楽的にカッコよくても、歌詞がいまひとつだと、「大好き」にまでは至りませんね。でも初期の佐野さんの歌詞は20代前半ですでにそのスタイルが完成されていたし、若くなければ書けない初々しい感性にも溢れていました。たとえば「ガラスのジェネレーション」や「サムデイ」や「情けない週末」など………この頃の曲はどれも好きで、レコードが擦り切れるほど聴きましたね。
─ 歌詞とメロディとの関係をマンガに置き換えたら、ネームと絵との関係になるかと思いますが、小沢さんの作品はそのバランスがとても良いと思います。
小沢 そう言っていただけると、うれしいです。でも、自分ではまだ納得できないことも多くて。マンガにとってはどちらも大切な要素だし、全体のバランスを大切にしたいと考えてはいますが、難しいですね。フィクションでありながらリアル、そんな世界を漫画で伝えられたら……。読み終えたあと、どんなカタチでも余韻の残る作品を描いて行きたいです。
─ 元春の初期の作品もフィクションの楽しさにあふれていました。しかもそれは僕らにとってリアルなフィクションでした。他のシンガーが歌ったらリアリティの感じられない歌詞でも、元春が歌えばリアルだった。
小沢 そうですね。ロックにとっても、マンガにとっても、リアルか、リアルじゃないか、というのは大切な基準のひとつだと思います。ファンタジーにもリアリティは必要ですから。
─ 最後に元春へのメッセージを。
小沢 いつまでも変わらずにいてください。 |