究極の「佐野元春」クロニクル書籍 ストレンジデイズ社 編集
一般発売開始。
書店、HMVオンラインストアAmazonなどでお求めになれます。
販売価格:5,775円 (税込)


デビューから現在までの佐野元春を、5期に分けて記述したヒストリー


佐野元春 全作品 完全ディスコグラフィー


多方面で活躍する多数の著名人のコメント

他:DJ番組エアプレイ・リスト
  佐野元春 最新インタビュー
  付録として「佐野元春 年表」etc...




「佐野元春〜ラジカルな知性」
〜クロニクル本「ロックンロールとセンチメンタリズムの間に」に寄せて〜
text=小尾 隆






















 大好評のうちに終了した2006年の全国ツアー「星の下 路の上」でも、ロック音楽への変わることのない献身を見せた佐野元春。現在の彼は日本でも屈指の演奏力を誇るザ・ホーボー・キング・バンドという大いなる母船から離れて、若手ミュージシャンとのコラボレイションを試みている最中なのだがその一方で80年代作品をリマスター化したり、「サムディ」「ヴィジターズ」「カフェ・ボヘミア」といった重要作を拡大版としてリリースしたりと、アーカイヴ音源への取り組みにも積極的だ。

 そんなタイミングが追い風となったのか、ここに究極の”佐野クロニクル”とでも言うべき書籍が登場した。A4判の全254ページを紐解くと印刷も鮮明なカラー写真が満載され、さらには佐野と岩本晃市郎による対談を収録したCD、年表、佐野直筆の歌詞カードのレプリカといったオマケも付くという豪華なメニューになっている。

 本書の核は、80年の衝撃的なデビューから現在までの25年に亘る佐野の軌跡を、毎年行われるツアーの克明な記録とアルバム、シングル、そして映像といった作品群の両軸から追いかけたことにある。時代ごとに設けられた音楽評論家による文章もまた、佐野というアーティストの大きな流れを掴むための格好のテキストとなった。

 とくにアルバム・レヴューに関して思ったのは書き手がデータを重視し、抑制されたタッチで向き合うことで”年代記”に相応しい落ち着いた響きを獲得していること。各筆者とも作品に対する思い入れは半端ではないだろうが、あえて心情を抑えることで読み手に無地の印象をもたらしている点には(僕の文章スタイルとはやや異なるものの)好感を持った。

 佐野への迸るような熱い思いが語られ、彼の人柄が自然と浮かび上がってくるのは、むしろコメント欄のほうだ。伊藤銀次や佐藤奈々子、吉野金次といった歴代に亘るバンド・メンバーや交流があるミュージシャン、そして各種関係者の口から語られる佐野元春、、、彼らの語り口は一様に、普段僕たちがカフェで佐野の音楽について交わす会話と何ら変わることはない。

 ここで繰り返す必要もないが、佐野は音楽ジャーナリズムに心を開いてきた”言語の人”でもある。理屈なんかどうでもいい、という態度のミュージシャンが多いなか、佐野は誠実に膨大な量の取材に応じ、自身の音楽やロック音楽が導き得るヴィジョンについて時に饒舌過ぎるほど真剣に語ってきた。本書の企画・編集者でもある岩本晃市郎は、ここでも序章として新たなるインタヴューを行い、溢れ出てくる言葉を見事に引き出しているが、佐野というラジカルな知性は、わが国のロック・ジャーナリズムに光明をもたらしたのだった。

 ともあれ、本書は第一級の研究本である。山本智志が書いた丁寧で辛抱強いライヴ・ドキュメント「ワン・フォー・ザ・ロード」(大栄出版)、山下柚実の肉声すら聞こえてくるような「時代をノックする音」(毎日新聞社)と同じように、僕はこの本を晴れの日も雨の日も読み返すことだろう。

(このテクストは、ストレンジデイズ出版のご厚意により、2007年1月20日発売号「ストレンジデイズ」に掲載された記事から転載させていただきました。)



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