元春ネルシャツ・ヒストリー

取材・編集:吉原聖洋
デザイン:小山雅嗣[Beat Design]
編集協力:M's Factory


─ 佐野さんはこれまでにもさまざまなネルシャツを着てステージに上がった来られたわけですが、ネルシャツにまつわるエピソードを聞かせてください。普段着としてのネルシャツはもちろんデビュー以前から着ていたわけですよね。

佐野 ●もちろん。10代の頃からよく着ていた。でも、ステージの上で着るようになったのは、ニューヨークから帰って来てからだね。といっても『ビジターズ』の頃にはニューヨークのダウンタウン・ボーイのスタイルだったから、オン・ステージでネルシャツを着るようになったのは1986年の“東京マンスリー”からじゃないかな。いま振り返れば、その頃から音楽が自分の生活により密着したものになってきたから、ステージの上でもよりカジュアルなファッションを身に着けるようになってきたんだと思う。

東京マンスリー─ これはその“東京マンスリー”での写真ですね。

佐野 ●このチェックのシャツはよく覚えています。このシャツの袖は僕が自分で千切ったんです。バックステージで着てみたときに半袖の長さが中途半端だったので、むしろノー・スリーブに近いくらいのほうがいいんじゃないかと思って、自分でビリッと破ってしまった。で、その千切れ具合がけっこう気に入ったので、そのままステージに上がりました(笑)。

─ このネルシャツとその袖の千切れ具合は“東京マンスリー”によく似合っていたと思いますが、ステージの上で着ているものがパフォーマンスに影響を及ぼす、ということもありますか?

佐野 ●それは多少なりともあると思う。たとえば男が戦場に赴くときにはそれにふさわしい戦闘服を身に着けるように、人が気持ちを或る方向にフォーカスしていくときに服は役に立っているような気がする。だから“東京マンスリー”での僕のカジュアルなファッションからは、そのときのパフォーマンスとも相まって、より日常に近い佐野元春を感じてもらえたんじゃないかと思っています。



カフェ・ボヘミア・ミーティング─ 次の写真は、同じく1986年の“カフェ・ボヘミア・ミーティング”で撮影されたものですね。

佐野 ●これは花柄のシャツ。生地は化繊の混紡だったと思う。僕はこのシャツをとても気に入っていて、長い間、着ていました。なんというか、ニューヨークの古いホテルのロビーに下がっているカーテンみたいな感じの生地と柄なんだ。実際、このシャツはニューヨークのダウンタウンの古着屋で買ったんです。とてもロマンティックな色、柄、デザインのシャツ。こんなシャツは他のどこのお店でも見たことがない。






─次は1990年の“タイムアウト・ツアー”での写真です。タイムアウト・ツアー

佐野 ●このシャツの柄はちょっと変わっているでしょう? この柄は花じゃなくて葉っぱなんだよ。葉っぱのプリント。プリント地のシャツっていうのは、着る側にとっては「乗るか反るか」なんだ。ひどい場合にはチンピラになってしまう(笑)。僕はチンピラみたいなプリントのシャツが大好きなんだけど、失敗すると本当のチンピラになってしまう。このシャツも普段、街で着ていたらチンピラっぽいと思う。だけど、ステージの上ではそれがロマンティックに見えるんだ。不思議だよね。

─ では、このシャツはオフ・ステージでは着ていないのですか?

佐野 ●うん。普段には着ていない。普段着にはあまり向かない。でも、それがステージの上では映えるんだ。だけど、ステージの上でもプリント地のシャツを着るときにはいつもドキドキする。なにしろ「乗るか反るか」だからね。

─ 佐野さんがシャツを選ぶ場合の選択の基準というのは何ですか?

佐野 ●僕の場合、シャツに限らず、その洋服が自分に似合うかどうかと考える前に「この生地がいいな」とか「プリントがきれいだな」とか「デザインが素敵だな」といったディテールで判断してしまうことが多い。その服が自分に似合うかどうかは二の次なんだよ。それで何度か失敗したことがある。公式に発表されている写真はそれが上手くいったものなんだ。だから、きっとひどい格好の写真もどこかに残っている(笑)。それはファンの人たちのほうがよく知ってるんじゃないかな。

ザ・サークル・ツアー─1994年の“ザ・サークル・ツアー”でのこのシャツも印象的なものでしたね。

佐野 ●このツアーでのファッションも僕の普段のスタイルの延長線上にある。僕は赤いストラトキャスターをずっと使ってきたから、それに似合うような暖色系のシャツを着ることが多かった。このシャツもそうだね。これも僕のお気に入りのシャツだった。“ザ・サークル・ツアー”は長いツアーだったから、同じシャツを3着くらい持っていたんじゃないかな。


10代の潜水生活─ 次の写真は、1995年の「10代の潜水生活」のレコーディング中のショットですね。

佐野 ●これは写真ではわかりにくいけれど、ちょっと変わった帽子を被っている。僕は帽子は嫌いじゃない。このときはメガネも風変わりなものだね。このシャツは厚地のもので、シャツの上に着るシャツという感じ。シャツ・ジャケットとでもいうようなタイプ。


─ 次は1996年の“インターナショナル・ホーボー・キング・ツアー”で撮影された写真です。

佐野 ●これまでもダウン・トゥ・ジ・アースなサウンドやファッションへの興味は僕の中にあったのだけれど、それがホーボー・キング・バンドの連中と出会うことによって一気に吹き出したんだ。このツアーでの僕は細かい赤のチェックのシャツにタイトなブラックジーンズを着ていた。そして、この写真では被っていないけれど、たしかモスグリーンのハットを被っていたと思う。



─ 次の写真は、1996年の“フルーツ・ツアー”でのものですね。

佐野 ●このシャツはアルバム『フルーツ』のジャケットで着ているシャツと同じものです。あのジャケットの写真は僕の家の近所の公園で撮影したものなのだけれど、その撮影が急に決まったものだから、僕が何を着るか、何も決まっていなかったんだ。で、その日に着ていたチェックのシャツのまま撮影して、結局、それがあのジャケットになってしまった。だから本当に普段着なんだ(笑)。でも、出来上がった写真を見たら悪くないんだ。アルバム『フルーツ』をレコーディングしていたときの僕の気分に非常に近いフィーリングがそこにはあった。それで、最初は普段着だったこのシャツを大事にツアーに持っていって、ツアーの間、ずっとこのシャツを着ていました。このシャツは僕にとってセーフティ・ブランケットみたいなものだった。着ていると安心できた。とても大切なシャツ。誰にでも1枚や2枚はそういう服があるんじゃないかな。


─ そして最後の1枚が今年の“ロック&ソウル・レビュー”のアンコールで披露された御来光の赤いチェックの半袖シャツですね。

佐野 ●アンコールで僕がこのシャツを着て出ていくと、ファンのみんながとても歓んでくれた。みんな、本当にうれしそうなんだ。僕自身は特に赤い色が好きだというわけでもない。だけど、僕が赤いチェックのシャツを着ると、ファンのみんなが歓んでくれる。だから、それが僕のスタイルなのかな、とも思う。オーソドックスな赤いチェックのシャツ。このシャツを着てステージに出ていくと、僕をまるごと100パーセント受け入れてくれるファンの視線に出会える。そのとき「ああ、このシャツを着て良かったな」と僕は思う。でも、次のツアーでも同じようなタイプの赤いチェックのシャツを着るかどうかはわからないよ(笑)。




  対談“KingBird Meeting”
「御来光」(ゴライコウ)のブランド・デザイナーである武藤氏とネルシャツにまつわるコラボレーション対談。


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