MWS●『Stones and Eggs』は、’90年代の最後、21世紀を目前にしてリリースされたアルバムですね。
佐野●そうだね。世の中はミレニアムという雰囲気の中でリリースされたアルバムだ。自分も20周年を迎えようとしている矢先だったので、そうした節目のアルバムだという意識はあった。それまでのアルバムと違うのは、その制作の方法でした。それまでは商業スタジオを使っていたんだけれども、自分のプライベートスタジオを作り、そのスタジオでアルバムを創ってみよう。その第1作目がこの『Stones and Eggs』でした。
MWS●ホームレコーディングは、前作の『THE BARN』においてウッドストックで培った経験を自分なりに吸収し、自分のプライベートな環境で試行錯誤したいという気持ちから行われたものなのでしょうか。
佐野●理由は2つあった。1つは経済的な理由。レコード産業が全体的に落ち込んで、アーティストの制作環境が悪化したこと。そんな中、レコード会社に頼ることなく、自分の力でレコーディングできるようにしておいたほうが将来的にいいだろうと思った。もう1つの理由は、レコーディング環境がアナログからデジタルに移行して、ハードウェア、ソフトウェアが充実してきたこと。この2つの理由があったね。
MWS●プライベートスタジオで実際に制作する段階になったとき、いろいろなタイプの曲をそこで試してみたと、インタビューなどで語られています。それも技術的な理由と創作的な理由の両面からくるものだったということでしょうか?
佐野●そうです。ホームレコーディングといっても、商業スタジオでやるようなことがすべてできるわけではないから、どんなことがどれくらいできるかという試しもあった。いろいろなサウンドをそこで試してみた。
MWS●『Stones and Eggs』の中にはさまざまなサウンドの曲が入っていますね。「GO4」のようなアシッド・ジャズ、ヒップホップ的なものもあれば、フォークロックのようなものもある。50年代ジャズ的なものもあるし、ロックンロールもある。結果それが、’80年代から’90年代までずっと佐野さんが作られてきた作品のエッセンスが凝縮される結果になったと思います。
佐野●結果的にそうなったと思う。ただ、制作期間が短かったので、ああもすればよかった、こうもすればよかったという思いが一番残ったアルバムだ。たとえば「石と卵」。あの曲は後にボニー・ピンクに参加してもらい、新たに井上 鑑のストリングスを加えて、ミックスをいちからやり直した。それをアルバム『GRASS』に収録した。あの曲には個人的な思い入れがあったので、やり直したんだ。
MWS●収録曲について語ってもらえますか?
佐野●「君を失いそうさ」の世界観は素晴らしいし、「だいじょうぶ、と彼女は言った」は「♪君と僕のブランニュー・デイ」と唄っているとおり、ファンに向けて、21世紀に向かって希望を持って歩いていこうというメッセージを持った曲だ。「驚くに値しない」は実験的なアプローチをしたサウンドだけれど僕は気に入っている。一緒にランチを食べようと唄った「エンジェル・フライ」。この曲は、僕も含めて「排除され阻害された」ひとたちへのシンパシーを唄にしてみた。『Stones and Eggs』は、アルバムとしてのまとまりは欠けるけれども、1曲1曲のポップ感は、とても自分らしいと思っている。
MWS●そもそも「石と卵」というのはどういうイメージやコンセプトだったのでしょうか。
佐野●石というのは無機的で、卵というのは有機的。卵は命を宿して生命を育んでいる。石というのは物体であって、何かが宿っているようには見えない。石というのは硬くて丈夫に見える。卵というのは薄い皮1枚で弱そうに見える。でも見方を変えてみよう。卵は薄い皮だけど中に命が宿っている物体であって、これほど強いものはないんじゃないか。石は一見すごく硬そうだけれど、意外ともろかったりする。そうしたものを対比させて、人生全体を比喩してみたくなったということだね。
|