クリエイティブなアンサンブル
池内克典

 このアルバムの発売当時、僕は高校3年生。多感といえば多感、雑多といえば雑多。クールを決め込んでいるつもりでいた。そんな時代だった。
 『カフェ・ボヘミア』はレコードで手に入れた。中にはビニールの袋の上に更に歌詞カードではなく、黒い紙ケースが入っていた。そのケースにはハートランドメンバーの名前と顔写真、そして歌詞。ケースの中にはポップな魚たちのイラスト。洗練された印象だった。
 ジャケットの裏表紙には曲のタイトルが入り、その紙質はバックの写真が大理石調だったように、その質感が表現されたようなマットな紙でこれも印象深かった。クリエイティブだなぁと。

 前作『ヴィジターズ』以来2年半振りとなったオリジナルアルバム、それは初めての「ハートランド」のバンド名義。そして「ヤング・ソウル・アンサンブル」となっていた、元春さんらしいな。一過性のないポップでジャジーでスカでレゲエでロックンロールで。でも実は巧妙にリンクされ最期にはグッと締まり彼たち彼女たちへの極上のクリスマスプレゼントとなっていた。
 元春さん自らが当時、立ち上げたエムズ・ファクトリーレーベルとして2ヶ月おきに立て続けにシングルを発表、3枚ともB面がいかしていたっけ。それ以前(「ヤングブラッズ」や「クリスマス・タイム・イン・ブルー」)のものも含めたこのアルバムは「その範囲内 (1985〜1986)のベストアルバム」の様相も垣間見られた。

 それからの後、現在までいくつもの顔(バージョン)に変わる曲群も揃っている。「99ブルース」しかり「インディビジュアリスト」しかり、これらはセカンドアルバム『ハートビート』の曲群と同等のレベルで今でもライヴで楽しませてもらえる曲たちだ。元春さんにも僕らファンにも未だに唄いたい聴きたいというものなのかもしれない。(ないと寂しいという表現がピッタリか?)
 それはカフェボヘミア発売当時の20年前から元春さんが思いを馳せていたのかな。

 もちろんメッセージ色の強い異彩を放つ曲が多く収録されているのだけれど、全部が全部そんなに暗くない。暗いどころか希望に満ち溢れる曲調たち。ジングルの様に鏤められた楽しいパーティーの様子も伺える『カフェ・ボヘミア』なかけらたち。だからこそソウルフルに心の中で踊り続けられたんだろうな。きっと。

 全ての『なぜ』にいつでも答えを求めていたんだ。
 いつでも君のために戦うんだ。
 真夜中に彷徨うロビンフッドなんだ。
 Ring-a-ring-a-roses! Tonight's gonna be alright
 そして当時の僕に戻る。

卒業が間近になり発行する文集の中で、僕はこのアルバムから一節を拝借した。
 「さよならを言い出しかねて無駄な言葉が費やされていつもの夜が過ぎていく。」
 僕が好きだった彼女もまた同じようにこのアルバムの中から
 「みせかけの輝きはいつかさびていく。できることだけを続けていくだけさ。」
を引用していた。
 その彼女と知り合って21年、カフェボヘミアとほぼ同じ年月を重ねていった。
 そして2人の間には今、3歳の息子が1人居る。