特集=佐野元春『自由の岸辺』が照らし出す現在

THE HOBO KING BAND feat.佐野元春

吉川勝人

 針を落とし聴いてみると、佐野元春名義のアルバムではなかった。そこにはホーボーキングバンド名義の新作アルバムがあった。

 紛れもなくホーボーキングバンドの音。その音を佐野元春流にアップデート。ただのアップデートではなかった。そこにあるのは音の裏側にある人の繋がり、信頼、リスペクト、歴史…、深いモノを感じずにはいられなかった。

 それぞれの曲からはバンドメンバー1人1人にスポットライトが当てられ輝き放たれていた。そのメンバーの喜びの音。佐野が信頼を寄せているメンバーへのリスペクトな音を引き出した音。その融合と鬩ぎ合いの音。

「音が会話している」
「なんて心地よい音なんだ」
それがはじめて針を落とした時の思いだった。

 恐らくセルフカバーの概念も佐野元春流に壊してしまったのかもしれない。あのビジターズで日本のロックに風穴を開けた時の様な衝撃と新鮮さ。セルフカバーと言うよりまさしくホーボーキングバンドの新作アルバムと位置付けられる作品。

 佐野元春が、現在のホーボーキングバンドメンバーをいかに生かして作るか。それは何十年の絆がなければ完結しない音。その絆がもたらす自信。その自信がさらなる音の深みに繋がっている。まさにグルーヴだった。

 これが今回のテーマの様に感じずにはいられない。