Have A Nice Trip
Mitsuhiko "Rusty" Kawase

 佐野元春とザ・コヨーテ・バンドにとって、『ゾーイー』は、『コヨーテ』に続く2枚目のアルバムだ。そのことに間違いはない。しかし『ゾーイー』と比較すべきなのは『コヨーテ』ではなく、じつは『月と専制君主』なのではないか、という仮説を、いま僕は楽しんでいる。一例として、次のようなオーダーで再生してみよう。

レイン・ガール
愛のためにできたこと
月と専制君主
君と往く道
C'mon
日曜の朝の憂鬱
詩人の恋
夏草の誘い
君がいなければ

 なんという調和ぶりだろう。『ゾーイー』のなかでもひときわオーガニックな、あるいはアクースティックな曲だけを僕は抜き出したから、不足は確かにあるだろう。調和しているのは、しかしサウンドだけではない。リリックにおいても、このふたつのアルバムに収録されている曲たちのあいだには、驚くほど多くの一致を見ることが出来る。これが偶然だとは僕は思わない。偶然なわけない。あるべき理由が、そこにはあるはずだ。

 初めに言葉があり、その言葉は神とともにあったという。ロゴス。最良の精神たちが共有し得る、もっとも普遍的な道具。この道具の使い手として、佐野元春は、誰よりも正直であり続けたのではないか。正直であり続けたとは、更新し続けた、あるいは探究し続けたということだ。言葉、そして生命(ライフ)の探究を、30年以上にわたって、佐野元春は続けてきた。小さなカサノヴァと街のナイティンゲイルの物語は、たいへんな深さと奥行きを持った普遍性へと到達した。

 君 今 絶望する ゆえに
 君 即 希求する
(佐野元春「僕が旅に出る理由」より一部引用)

 さらなるいい旅を。