水落佐予子

 とにかく驚くべき仕上がりである。彼の持つ独特な世界の先入観が根強く漂っていたが、強烈な一打で見事に新たなミラクル・ワールドを生み出した。確かにポップである。だがしかし。ただポップなのではない。ホイップでキレイに飾られているわけでもないのに、そのもの自身、つまり曲自体がそれぞれいい色で息づいているのである。

 これだけキャリアのあるアーティストなのに、こんなに多彩であるのには本当に驚いた。様々な音楽の要素を巧みにメレンゲしつつ、根底にあるベースは必ず、常に変わることなく存在する。そのベースが果たして何であるのかはあくまでも私達自身の心で感じとるもので、決して他の人にヒントを求めてはならない。

 だがそれにしても、このアルバムの持つ柔らかでいながら、時に鋭く切り込んでくる感覚は何なのだろう。とにかく不思議である。サイケ色の強い後期ビートルズの様な、何だかキャンディーみたいなポップさと、ソウル、カントリー、フォークなどのルーツサウンドに、微妙なデジタル音を見事に、まるでDNAの組織配列図の如くバランスのとれた元春サウンドとして昇華させている。まず他では出会うことの出来ない独自の音だ。

 超個人的にいうならば、少し切なくなってしまうラインが特に好きだ。誰にだって感情に触れる、ある特定のラインを持っているが、そこを常に刺激されてしまうのである。切なさで挙げるなら、「経験の唄」がいい。とにかく聴くべきだろう。あとは特にといえば、「インターナショナル・ホーボー・キング」、「楽しい時」、「天国に続く芝生の丘」、「夏のピースハウスにて」、「言葉にならない」「十代の潜水生活」、「メリーゴーランド」、「太陽だけが見えている」、「フルーツ」とほとんど全部なのだが、やはりピックアップするなら!とこだわってみた。今作のアルバムには若手一押しのプレイグスも参加、より濃いものとなっている。

 そして7月1日、ようやく初夏の、やや強目の陽射しの中から"おはよう"を伝えにやってくる。

水落佐予子