アフリカの飢餓に対する危機感からブームタウン・ラッツのボブ・ゲルドフの呼びかけにより、ジャンルを越えたアーティストが集い、83年末に作られた1枚のレコードがバンドエイドの「Do They Know It's Christmas?」。
その後、マイケル・ジャクソン、ブルース・スプリングスティーンらトップ・アーティストが参加したUSA フォー・アフリカの「We Are The World」を代表に、世界中のミュージック・シーンにチャリティ・レコードが作られる動きが瞬く間に広まった。その動きをライブという場でまとめ世界中に発信したのが1985年7月に行なわれたライブエイドだ。
このウッドストック以来の世界が注目する音楽イベントに佐野元春も日本のスタジオから映像のみだが参加した。ライブ会場の転換の合間に、何組かの日本人アーティスト(矢沢永吉、小田和正、忌野清志郎)が中継という形で世界のテレビジョンを通じて送り込まれたのだが、佐野の表現方法は他のアーティストと一線を画していた。
当日演奏されたのはアルバム『VISITORS』に収められている「シェイム〜君を汚したのは誰」。他の日本人アーティストのパフォーマンスが言葉の枠やアーティスト性も含め、本当に世界にアピールできたのかが疑問に残る中、佐野から放たれた言葉は、インサートされる象徴的な映像と共に強烈な痛みと圧倒的なリアリティを醸し出した。
場所は離れていても、ライブエイドに参加した現場の出演者と同等の体温がブラウン管から伝わってきたのである。メッセージ性のレベルの高さは決してひけをとってはいなかった。
のちに1989年の横浜スタジアムでのライブで人権侵害を訴えるチャリティを行なったり、同年に東京ドームでオノ・ヨーコらとアムネスティ・コンサートにジョイントした佐野の活動がライブエイドへの参加がきっかけとなっていたことは間違いない。