03 | ザ・サークル・ツアー
1993-1994



 1993年から1994年にかけての佐野元春とザ・ハートランドはそれまでの彼らの歴史の中で最も忙しく活動した。ライヴの本数も、渋谷公園通りのストリート・ライヴや学園祭、イベントやテレビの公開録画などを含めれば、50本を超えている。そして1994年9月、横浜スタジアムでの「Land Ho!」を最後にザ・ハートランドは解散するのだ。


 「ザ・サークル・ツアー」におけるザ・ハートランドのステージは、それ以前のツアーと比較しても最も明るいものだった。'80年代の「カフェ・ボヘミア・ミーティング」と「ナポレオンフィッシュ・ツアー」、'90年代初頭の「タイムアウト・ツアー」がその主題や方向性、ステージに流れる空気感までも計算されたツアーであり、シニカルなメンタリティを放つ硬派の佐野元春の心象を浮き彫りにしたツアーだったから、「ザ・サークル・ツアー」はより明るく、柔らかく、リラックスしたイメージを放っていたのかもしれない。

 ザ・ハートランドにとって最後のスタジオ録音となってしまったアルバム『ザ・サークル』。ツアーではその中から5曲が披露された。リズム・セクションの心地よさがホール全体を包み込んだ「新しいシャツ」。ライヴのために新たにアレンジされ、ダディ柴田のサックスがフィーチャーされたタイトル曲「ザ・サークル」。この曲での佐野はビデオ・クリップで演じていたビート詩人を気取り、クシャクシャにした紙を時折り覗き見ながら、まるでレニー・ブルースのようにリーディングしてみせた。そして佐野の定番とも言えるブルー・アイド・ソウル唱法が輝いている「君を連れてゆく」。ライヴのオープニングを飾った「欲望」も含めて、アルバム『ザ・サークル』からの楽曲には他の作品にない特別なオーラが感じられた。

「ザ・サークル・ツアー」は、ザ・ハートランドのバンドとしての実力が遺憾なく発揮された最後にして最高のコンサート・ツアーだった。


(下村 誠)



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