02 | アルバム『ストーンズ・アンド・エッグス』
1999-2000



『ザ・バーン』プロジェクトが終了しておよそ1年半の間、佐野は仕事場に設けられた小さなスタジオでレコーディングの日々を送っていた。

 彼を囲むものはハードディスク・レコーダーやProToolsといった最新のデジタル・イクイップメント。アコースティックなバンド・サウンドを追及するためウッドストックで集中合宿しながら制作された前作とは一変し、新しいアルバムの作業はまず、プライベートな空間でリラックスした態勢のもとに進められた。そうした環境において、佐野は過去の作品を聴き直しながらこう思ったと話す。

「ニュー・アルバムの制作というと、以前よりも新しいことをやってみんなをビックリさせようという気持ちが働きがちなんだけれども、今回はそうした気持ちにとらわれず、多くのファンと時代が受け入れてくれた僕のこれまでの作品の良いところはどこなのだろうか――と考えるところからレコーディングは始まった」

 デビュー20周年を間近に控え、1999年8月に発表された通算12枚目となるオリジナル・アルバム『ストーンズ・アンド・エッグス』とは、つまりこれまでの創作を見つめ直し、リスナーとの関わり合い方を再認識することから発している作品だ。 

  本格的なスタジオ・レコーディングを経て、本作は非常にバラエティに富んだ曲が収録されることになった。たとえば『ヴィジターズ』におけるヒップホップ手法を再び試みた「GO4」「驚くに値しない」。ザ・ホーボー・キング・バンドとの円熟味あふれるセッションを披露する「だいじょうぶ、と彼女は言った」「シーズンズ」。または『スロウ・ソングス』を彷彿させるような「石と卵」……。これまでのキャリアを土台にしながら、技術的な革新に裏打ちされた楽曲を詰め込むことで、佐野はレコーディング・アーティストとしての拡張を宣言しているかのようである。 


 その姿勢はドラゴンアッシュの降谷建志が手掛けた「GO4 Impact」にも顕著だろう。佐野から端を発した日本語によるラップ表現がセカンド・ジェネレーションに委ねられたとき、彼らとの交差が指し示す融合――。いま一度自分の立ち位 置を確認し、次なるステップを視野に入れようとする気概にあふれたこの曲を聴くたび、リスナーは時を経て更新する音楽の妙技を感じてしまうに違いない。 

 また、アルバム発表後に行なわれたツアー('99年9月〜10月)では、こうしたアルバムの雰囲気をステージに転化するザ・ホーボーキング・バンドの手腕が光った。打ち込みをベースにした曲もパワフルに再生し、コンサートという場が本来持つスリリングさを会場に満たした。そこに、かつての「ヴィジターズ・ツアー」のような緊張感の再来を感じ取ったオーディエンスも多いことだろう。

(増渕俊之)


●関連サイト
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