15 | もうひとつの“20周年アニバーサリー・エディション”「GRASS」
1999-2000



 充実したアンソロジー『20thアニバーサリー・エディション』に続いて発表されたこの作品は、佐野元春の“アナザー・サイド”とでもいうべきコレクション・アルバム。1987年録音の未発表曲「ディズニー・ピープル」から初期の名曲のひとつとして定評のある「モリスンは朝、空港で」まで、全13曲。ここには、よく知っている曲、懐かしい曲、思いがけない曲、そして初めて聴く曲が収められている。 


 言うまでもないが、このアルバムはよくあるような“寄せ集め”とは違う。オリジナル・アルバムの収録曲やシングルのBサイドを中心に、未発表曲2曲(「ディズニー・ピープル」「ブッダ」)と新録音(ボニー・ピンクとデュエットした「石と卵」)で構成されたこの編集アルバムは、細部にわたって気が配られた作りになっている。
 
 隣り合う曲どうしが響き合い、その連なりが新たな意味をそこに生み出していて、あるテーマをもとに曲を書き下ろして“コンセプト・アルバム”を作っても、なかなかこうはうまくいかないだろう、と思わせる確かな手応えがある。全曲リミックスを施しているとはいえ、これほど一貫したムードを持ったベスト盤もめずらしい。 
 
 60年代後期のビートルズのことを思い出させるようなポップ感覚が随所に見受けられるのもこのアルバムの特徴だが、それはサウンドやアレンジが似ているというよりも、光と陰、カラフルさとダークさ、あるいはシリアスな現実認識とうっとりするような夢想といった対立するふたつの要素が、ひとつの楽曲のなかに同居していることによるものだろう。
 
 佐野はこのアルバムに最初『GRASS MAN』というタイトルを用意していたのだそうだ。“根無し草的な男”。それはビートルズの“Nowhere Man”のことを連想させるし、「ボヘミアン・グレイブヤード」の冒頭の一節を思い出させたりもする。
 
 いずれせよ、このアルバムを通じてその男と“会話”してみるのも楽しそうだ。

(山本智志)

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