N.Y.C.1983-1984

N.Y.C.1983
オレは巣に戻りそこねた魚だった
ここに来て初めての夜
ケネディー空港からマンハッタンの街中に至るまで
タクシーの中で ずっとオレは
イースト・リバーの重たいうねりを感じていた

始めの1か月間
セントラル・パーク・ウエストにある安ホテルに
仮の宿をとった
シャワーを浴びながらオレは
向かいの窓から聞こえてくる
Princeのファンクが
せつなく飢えた街の鼓動と
同期するのをみていた

すべての幻想を打ちくだくことから始めてみた
ストリートからストリートに
真夜中から朝に
届けるつもりだった花束は
E.14thの巨大なガベージに
捨ててしまった

サマータイム
からっぽのワシントン広場
できるだけ抽象的な格好で
噴水にDiveする
この街に来てから
初めての友達が ドラッグで死んだ

ブラボー、ブラボー
午前2時の Danceteria
光の束にうずくまり
すすけた騒音に身を震わせ
16ビートのすき間にもぐりこもうとする
電気的なカンガルー達
休むひまもなく
ミニチュアの野性をかじり続ける

柔らかい熱を蓄えた月の光が
この街の狂気を蒸留する頃
オレ達はバルコニーにテーブルを置いて
夏の終わりをくつろいだ
ミッドタウンの一部が
サイエンス・フィクションのように
青白い光を放ち
時々 通り過ぎる救急車のサイレンでさえ
全世界でいちばん 愛しいノイズに感じていた

パークアベニュー・サウスを歩きながら
オレとバッファローから来たモーホーク男は
互いに絶望のパーカッションをたたき続け
喜びや怒り、意識、感情、Sex、愛、
そして生活について
いつくかの言葉を交したあと
温かいオニオン・スープにありついた

凍てついたクリスマス・イブ
48th.ストリートでギブソン・バードランドを手に入れた
アンプリファイアで増幅された
恋人の優雅な金切り声が
街中にひびきわたる
君は西側の壁にもたれ
オレは東側の窓辺に立ち
毎秒 街路にこぼれ落ちる
新しい生命達をみつめながら
N.Y.C.1983 最後の夜を
心から祝福した

ニュー・イヤーズ・ディ
死の砂漠を行進する
ペンギンのように
無邪気な瞳のロニーは
「絶望がみえる」
と言った
チャイナタウンの魚市場
国籍不明の魚達をながめながら
街の詩人達は憂鬱な恋を競う

リアリスト
と呼ぶには
観念的すぎる
すべての若き
Junk Junk Junk
オマエの輪郭をなぞりたい
昨日買ったクレパスで
時々 はみだしながら
オマエの架け橋を渡りたい
登ったり落ちたりしながら
直したり壊したりしながら

幻の中で夢をみている季節が
通り過ぎようとしている
近所の連中はオレのピアノにケチをつける
「調子っぱずれはやめてくれ」
「調子っぱずれはやめてくれ」
オレ達にも調律の時期がやってきた

準備を少しずつ整えながら
混乱のレンゲ畑からたった1本
オマエにだけぴったりと似あう
新鮮なレンゲを摘み上げてみよう
やがて若くてきれいなその夢も
アンティークなリズムを奏ではじめてしまう

  闇と光とがひとつに結ばれるまで
 クロスワードパズル解きながら
 今夜もストレンジャー

これはすべての
現在に関わりある人々についての
ストーリなんだ

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