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─金城さんの佐野元春初体験は?
金城 16歳のとき、友達が「とても良い詩がある」って教えてくれたんです。それが「ヤングブラッズ」の一節。「偽りに沈むこの世界で/君だけを固く/抱きしめていたい」でした。その友達から「聴いてみろよ」って言われて、彼が編集したカセットテープをもらったんです。そのカセットの1曲目に入っていたのが「夜のスウィンガー」。だから歌詞の初体験は「ヤングブラッズ」で、音楽の初体験は「夜のスウィンガー」、ということになります。
─そのカセットテープの印象は如何でしたか?
金城 ショックでした。それまで日本のロックはサザンオールスターズなどのヒット曲くらいしか聴いたことがなかったけど、佐野さんの音楽はそういったものとは明らかに異質だったから。
─そのショックをより具体的に表現すると……。
金城 もちろん音楽そのものにショックを感じたわけですが、特に歌詞が衝撃的でした。こんなことを歌ってもいいのか、と思ったし、こんな表現があり得るのか、とも思っていました。当時、僕は授業中にカッコいい歌詞をノートに書き写したりもしていたんですよ。佐野さんの歌詞によって僕は本当に励まされました。
─歌詞のどんなところに惹かれたのでしょうか?
金城 まず、定住していないところでしょうね。佐野さん自身もそうですが、歌詞の登場人物も定住していない。どこにも帰属せずに、常に移動している。僕はコリアン・ジャパニーズだから定住感覚がないので、常に移動しているその感覚が心地よかった。
─佐野元春の音楽には人種や国籍なんて関係ないですからね。
金城 そう。佐野さんの場合、あくまでも個人なんですよ。あくまでも個人であり、そして自由だった。それが僕にはとても気持ちがよかった。僕自身も常にそうありたいと思っているし、そういった価値観も含めて、佐野さんにはいろいろな意味で影響されました。
─ライヴでの思い出のようなものはありますか?
金城 僕が初めて観に行ったコンサートは日本青年館での東京マンスリーだったのですが、そのとき佐野さんがステージの上から「自由に歌ったり踊ったりして楽しんでください」って言ってくれたんです。その瞬間、救われたような気がしました。ここは誰からも強制されたりしない自由な場なんだ、と感じました。そして、因習とか偏見とか制約から自由に解き放たれようとする力こそが芸術や文化といった美しいものを生むんだ、と僕は気づいたんです。
─音楽的な影響もありましたか?
金城 もちろん。僕は佐野さんとの出会いでロックに目覚めたんです。佐野さんの音楽と出会って、それからルー・リードやブルース・スプリングスティーンを聴くようになっていった。そういう意味では、すべてはそこから始まっている。『GO』に出てくるミュージシャンたちの名前も皆、佐野さん経由で出会ったものが多いですね。
─『GO』には英米のロック・ミュージシャンの名前はたくさん出てくるけれど、
日本人のミュージシャンはまったく登場しませんね。
金城 名前を挙げたくなるほどカッコいいミュージシャンがほとんどいなかったから。佐野さんの名前だけを挙げたら小説としてはおかしいので、日本人はひとりも挙げなかったんです。
─佐野元春と金城一紀は創作に対するアティテュード(姿勢)が似ているような気がしますね。
金城 自分ではよくわかりませんが、そういった意味でも影響を受けているかもしれません。定住しない、という基本的な態度が一緒だし、僕も佐野さんのように常に新しいことに挑戦していきたいと思っています。僕はあらゆるジャンルの小説を書いてみたいと考えているんです。SFも、ミステリーも、ホラーも書いてみたい。
─最後に佐野元春へのメッセージをお願いします。
金城 新しいアルバムに期待しています。レコーディング、頑張ってください。
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