Moto's Wire INTERVIEW | File 07

大塚ヒロユキ Portrait 本多孝好

Interviewer : 吉原聖洋

  ─佐野元春との最初の出会いは?

本多 大学生のときですね。それ以前にも、もちろん、テレビやラジオなどで曲を耳にしたことはありましたけれど、本当の意味で意識したのは同じ大学の友達が作ってくれたカセットを聴いてからです。

─そのお友達というのが……。

本多 そう。金城(一紀)です。彼からもらったカセットを聴いて、佐野さんの音楽により積極的に興味を持つようになりました。自分で初めて買ったアルバムは『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』でした。

─どういうところに惹かれたのでしょうか?

本多 音楽だけでも魅力的だし、歌詞だけでも魅力的だと思いますが、それが融合されることで、まったく新しい世界が生まれるところに惹かれました。僕の場合、佐野さんの曲を聴くと、いつも抽象的な映像が頭に浮かぶんです。

─それは歌詞の世界に近い具象的な映像ではなくて、あくまでも音楽に刺激されることによって生じた抽象的な映像なんですね。

本多 そうです。映像というより、ある種の匂いなのかもしれません。その匂いが、聴く人間を刺激して、個人的な映像を作り出させるのかもしれません。僕の勝手な感想ですけれども、優れた作品というのは、それが何であれ、受け手に受容された時点で作り手の手を離れて、作り手が考えもしなかったような世界を受け手の中に作り出すもののような気がします。

─そういった映像は本多さんの小説に影響を与えていますか?

本多 影響はあると思います。どの作品でどう使ったか、具体的には自分でもわからないですけれど、これまでにも何らかの形で影響を受けていることはたしかですね。

─これから言語化してみたいと思っている映像はありますか?

本多 「雪─あぁ 世界は美しい」ですね。「ごらん世界は美しい」というあのワンフレーズを物語で訴えてみたいです。音楽によって喚起された映像を言葉で表現するわけですから、とても難しいのですが、いつか必ず言葉で描いてみたいと思っています。

─本多さんご自身は楽器を演奏されたりするのですか?

本多 作家になってからピアノを習い始めました。ヤマハピアノ教室に通ったりして。

─作家になってから?

本多 小説を書いているときの、ちょっとした息抜きになるかなと思ったんです。小説とは違う部分の脳を刺激してくれるかな、と。

─で、如何でした?

本多 僕の場合、どうやら小説と同じ部分を使っているようです(笑)。ピアノを弾くとぐったりしちゃって、もう小説どころじゃなくなる。だから最近はあまり弾いていませんね。

─本多さんの作品はミステリーの枠から逸脱したものが多いと思いますが、ミステリーというジャンルの小説を書いていることを特に意識されていますか?

本多 特に意識はしていません。たまたま最初にいただいたのがミステリーの賞(小説推理新人賞)だったから、ミステリー作家と思われるのかもしれませんが、書くときに意識するのは、どう書けば興味を持って読んでもらえるのか、どう書けば読みやすく伝わるのかということだけですね。一度も会ったことのない、自分とはまったく違うバックグラウンドを持っている人たちに向かって作品を提示するわけですから、そこに一番気を使います。

―ジャンルは関係ない?

本多 そうですね。僕自身がジャンルを問わずに読んでいましたから、書くときにもあまり気にしませんね。あとはどこまで誠実に小説と向き合えるかだけです。小説って、ここまでやればOKだという基準がないですから、拠って立つのは自分自身の中の誠実さしかない。そういうものは佐野さんの音楽にも感じます。依怙地なくらいの誠実さみたいなものがあるような気がします。

─では、最後に佐野元春へのメッセージをお願いします。

本多 新しいアルバムやライヴで僕らをどんな世界に連れていってくれるのか、どんな世界を見せてもらえるのか、楽しみにしています。
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