|
-佐野元春の音楽と初めて出会ったのは?
山川 その辺の記憶が定かではないのですが、佐野元春という名前を意識したのは「サムデイ」がヒットした頃じゃないかと思います。最初に買ったアルバムが『ノー・ダメージ』で、そこから初期のアルバムに遡って聴いてみたわけです。
-初めて聴いたときの印象を覚えていますか?
山川 その頃、大友克洋さんのマンガ「SO WHAT」を映画化したいと考えていて、この「SO WHAT」は田舎の高校生のロック・バンドの話なんですけど、そのイメージと「サムデイ」がピッタリと合ってしまったことを覚えています。実際に映画化できたのは5年後(1988年)だったので、渡辺美里さんの「マイ・レボリューション」をサントラに使ったのですが、そのときに映画化していれば「サムデイ」を使わせてもらったかもしれません。
-当時のお気に入りの一曲だったわけですね。
山川 自分と感覚が合う、と思ったんですね。だから、それから「アンジェリーナ」や「ガラスのジェネレーション」を聴いて、「ああ、やっぱりいいなあ」と思いました。
-村上春樹の短篇小説「100%の女の子」(1983年)を映画化されたときに佐野の「君をさがしている」をサウンドトラックに使おう、というアイデアは撮影中に思いつかれたわけですか?
山川 最初に村上春樹の原作を読んで、映像をイメージしていたとき、その映像のテンポと「君をさがしている」のリズムが合う、と思ったんですね。しかも歌詞の内容もピッタリだったので、この組み合わせなら1+1が2以上になる、と感じたんです。で、実際にやってみたら、それ以上の効果が生まれました。
-佐野元春と村上春樹には似ているところがあるような気がするのですが。
山川 ああ、そうですね。僕は主観的にしか語れないのですが、僕が好きな人には共通点があるような気がします。佐野元春さん、村上春樹さん、そして大友克洋さんも含めて、少なくとも僕にとっては共通するところがあるんじゃないかと思います。自分を中心に考えてみると、こちら側に佐野さん、そちら側に村上さん、あちら側に大友さん、というふうに或る範囲の中に位置しているわけです。位置は微妙に違いますけど、それぞれが或る範囲の中にある。その範囲の外のものが圧倒的に多いわけですから、やはり何か共通点があるんじゃないかな、と思います。
-その範囲の外のものには興味がないわけですね。
山川 そうそう。まったく興味がない。で、その範囲の中のものに対しては「だって、好きなんだもん」としか言いようがない(笑)。
-そこをなんとか説明してみてください(笑)。
山川 わかりました。僕の好きなものは、やっぱり自分のイマジネーションを刺激してくれるんですね。佐野さんの音楽で言えば、曲を聴いていると映像が浮かぶんですよ。もちろん歌詞の内容も関係するんでしょうけど、まったく別の映像が浮かぶことも多いですね。でも「100%の女の子」の最後の部分は明らかに「君をさがしている」の歌詞に影響されています。街の風景の断片の切り取り方が非常に佐野元春的だと思います。
-今後も佐野元春の音楽をサウンドトラックに使ってみたいと思いますか?
山川 それはもう、使わせていただけるのであれば、使いたいですよ(笑)。自分の好きな音楽を使える、というのは映画監督にとっては理想的なことですからね。
-役者としての佐野元春には興味がありますか?
山川 ええ。非常にユニークなキャラクターの持ち主だと思うので、映画の中でも独特の存在感を出してくれるんじゃないでしょうか。
-たとえば悪役なんて如何ですか?(笑)
山川 意外性があって面白いかもしれませんね。でも、せっかく佐野さんに演じていただくのであれば、中途半端な悪役じゃなくて、徹底的に嫌われている悪役がいいなあ。ロバート・デ・ニーロが悪役を演じた映画があるんですけど、映画の中でデ・ニーロが街を歩いていると、街の人たちが彼に石を投げるんです(笑)。
-そ、それはかなり嫌われてますね。
山川 だけど、中途半端な悪役よりもずっとカッコいいですよ、そのほうが。しかし、こんなことを言っていたら、佐野さんに叱られそうだな(笑)。
-では、叱られないうちに、佐野元春へのメッセージをお願いします。
山川 いつかどこかで、ぜひお会いしたいと思っています。お会いするだけじゃなくて、ご一緒に何かできたら、うれしいです。
|