Rock & Soul Review
日付/会場:2001/07/14 愛知県厚生年金会館
お名前:らくガキ
投稿日:Fri, Jul 20 2001 09:12:58 JST

Live#21

夏が好きです。
今年の夏はここ数年のものとはちょっと違う気がする。
空の青さ。ジリジリと肌を焦がすような日差しの強さ。
ぼくが子供の頃の夏の記憶に重なる。
そんな夏の朝、佐野元春&The Hobo King Band
”Rock&SoulReview”のライヴを観るために
東名高速を車で飛ばして名古屋へ向かいました。
今思うと渋谷公会堂のライヴ・チケットを手に入れられなかったの
は結果的に良かったんだと思います。
もし渋谷で佐野元春&The Hobo King Bandをすん
なり観ることが出来ていたら遠征をすることすら思いつかなかった
ろうし、新しい友達にも会えなかった。
ライヴは地元で観るものと思いこんでいた。
こういうことだけにに限らず日常の中に自分自身で知らぬ間に決ま
り切った境界線を引いているものです。
それを時にはボヤかしてスイッと越えてみるのも
愉快なものなんだろうなと思います。

名古屋に着き、ライヴ開演までの空き時間に街をぶらつきました。
駅から少し離れたビジネス・ホテルに宿をとり、そこから街への道
すがら、ふと仕事のことが頭をよぎる。
ここでもやはりいつもの日常は続いている。
人気のないさびれた社宅の団地群を抜けると、パッと突然、
街がひらけてもうそこは繁華街。
まず気が付くのは油ものの匂い。
それに誘われて 「みそかつ定食」を食べた。
        美味かった。
街はどこもどこかよく似てる。
よく日に焼けたホームレスが横たわり。
きれいなお姉さんは華やかな通りを闊歩する。
額に汗した会社員は携帯片手に足早にぼんやりと
歩くぼくを追い越し、おしゃれなお母さんは子供の手を引き、
人混みをかき分けて行く。

開場時間までもう少し。地下鉄に揺られて十数分、
会場は池下駅のすぐ近く。
いくつかのグッズを手に入れて、会場内へ。
今回はネットを通じて知り合った彼のおかげで、とてもいい席。
ステージから見て右よりの前から数えてまんなかあたり。
会場には小さな音で誰かのインストゥルメンタルが流れてる。
しばらくすると、スカのリズムのBGサウンドが徐々に
音量を上げて会場を包み込む。
The Hobo King Bandは各自定位置につき
佐野元春は手前に置かれたキーボードの前に腰掛ける。
ステージは闇に包まれピン・スポットが
佐野の掲げた腕を照らし出す。
キーボードの繰り返す和音が響きわたり、
細やかなハイハットが重なりベースがからむ。
       
  「口笛を吹きながら、夏の街を歩いて行く〜」

噂どおりのトーンを抑えた歌声。よく通る無理のない響き。

ここ数年の佐野さんは新しいボーカル・スタイルを
探し続けていた。
ここ数年の佐野元春はファルセットを多用してみたり、
語るように唄ったりで、以前の佐野元春を愛するファンはとても不
安になったことだろうと思います。

作用があれば反作用がある。
自分が信じることで、すべての人を満足させるのはとても難しい。

そんなことは百も承知で佐野元春は演っているんだと思います。


ぼくは音楽的にそんなに造詣が深い訳じゃないし難しいことは何も
言えないけど,このボーカル・スタイルはイケると感じた。
あえて他のアーティストに例えると
”ルー・リ−ド”や”ヴァン・モリソン”。
言葉の繊細な発音は失われていない。
以前のようなヒステリックで焦燥感を包み込んだ叫びは
ないけれど、クールな中に熱さや哀愁のようなものを感じる。
そして、新しいThe Hobo King Bandは
全員が唄える。
そのコーラスとも、とてもよく重なって気持ちいい。
コロさんのギターをかき鳴らしながら唄う、
はちきれそうな高いパートも格好いいな。

今回の選曲の多くでは1曲の中で場面転換が
さりげなくスッと行われた。
佐野元春がメイン・ストリームを一通り唄いきると場面が変わり、
その曲の持つもうひとつの顔をのぞかせる。

それは、ファンク、リズム&ブルーズ、ハード・ロック、
カントリー・ロック、スカ、レゲエ、ジャズ、フォーク、
そして ゴスペル。

今回のツアーのタイトルは「ROCK&SOUL REVEIW」
レヴューはダブル・ミーニング。
ショウの意味合いの「Revue」と
自分たちのルーツである「Rock&Roll」や
「Rhythm&Blues」をもう一度再確認、
批評してみる意味合いの「Reveiw」。

楽曲の中での唄がアンサンブルの中でのひとつの要素であるならば
そのアンサンブルの中の楽器のひとつとして例えるのは間違ってい
るだろうか?
佐野元春の肉体、
声帯・腹筋・顎の筋肉・舌の筋肉・頭蓋骨の響き
それらすべてが「詩」を奏でる楽器として、コロさんのすっごい
ギター・ソロ、KYONの奏でる巧みで熱いプレイ、山本さんのサ
ックスのソロやメロディさんのSOUL POWER、たかしの見
事に舞って転がるようなドラム、そして饒舌な井上さんのベースた
ちと対等にひとつの曲を昇華させる試みがなされていたようにも感
じた。
それらのからみや掛け合い、そして重層的なアンサンブルは、
時の流れを忘れさせ、心地よくぼくの魂をシェイクする。

今回のツアーでは新しいアルバムを引っさげてのものではないため
に昔の曲を(ツアー・タイトルにならい、特に黒っぽい選曲)演奏
しているが、同じように昔の曲を演奏した昨年のアニバーサリー・
ツアーとの違いは、後者はハートランド・マナーを通じて
佐野元春をメインに仕立てたショウであったのに対して、
今回は佐野元春の楽曲を通じて
The Hobo King Bandの本来あるべき姿を
映し出しているように感じました。
その証拠に、The Hobo King Bandが1曲の中で別
の次元を奏でる場面に移ると佐野元春はスッとバンドにとけ込み、
いちキーボーディストとして、もしくはサイド・ギタリストとして
きっちりと演奏を楽しんでいる姿を観ることが出来た。
今回のツアーだけに限らず、
佐野元春&The Hobo King Bandは自分たちならで
はの、その瞬間に起こる作用を軸に生まれる反作用や化学反応を試
している(もしくは楽しんでいる)ように感じた。

このツアーの中では新曲も数曲披露された。
「ジグソーパズルの最後のピースが見つかるまで〜」
「携帯電話を切る」
「強くなれる」
切れ切れに聴きとれた歌詞と、軽快でいて鋭いサウンドに
新しい物語を期待させられる「ジクソー」。
リズム&ブルースが下敷きにされたサウンドに、
心に残るフレーズが満ちた「Sail On」。
どちらも、もう一度じっくり聴いてみたいな。

ぼくは音楽によって癒されたいとか勇気付けられたいとか
あまり思わない。
素敵な音楽の中には、目には見えない宝石の輝きを感じる。
ボブ・ディランの言葉を借りるなら
「魔法の渦巻く船に乗り、ジングル・ジャングルの朝への旅」を
感じさせてくれるような、
よくわからないけどそんな音楽が好きです。
そして、佐野元春&The Hobo King Bandの音の
中にそれを垣間見ることが出来る気がする。


何回目かのアンコールに登場してしてきた
佐野元春はこんなふうに話した。

「この曲はぼくにとってとても大事な曲。もし、歌いたい人がいた
ら歌ってもいいよ」

そう、その曲は紛れもなくあなたの曲です。
たくさんの人のもとに届いた素敵な曲。
この曲を乗り越えるとか越えないとか別にどうだっていい。
過去の遺産だとか過去の栄光だとかいう人もいるけれど、
この曲は二十歳そこそこの男が描いた変わらない
真実のひとつです。
佐野さん自身がこの曲が陳腐だと思ってしまえる、
もっと素晴らしい何かが現れたとしても封印させることはない。
この「SOMEDAY」を背負って、気分のいいときは
どうか自分のために唄ってほしいです。


アンコールを待つ合間、薄暗くなった会場には
ステージ上につるされた「King Bird」の中の明かりが
揺れてほのかに会場を照らしている。
まるでどこに続いているのか見通せない埃っぽい洞窟を
照らすカンテラの様だ。
ほんの一瞬前になされたギグは遠い昔のよう。
オーディエンスの喧噪さえ薄れて孤独の静寂の中にぼくはいた。

翌日、再び車を走らせて地元 横浜への帰途につく。
なぜなら、大切な日常が待っているから。
いつ崩れてしまってもおかしくない日々。
出来るだけ愉快に過ごしたい。
日常の流れに身を任せながらも、上手くわざと足を踏み外して、
いつだって魂をシェイクするチャンスをうかがってやる。
崩れてしまいそうな日々、崩れてしまったあとの日々。
何かと不自由なぼくは、まだまだ少しずつ強くなる。


このツアーの実りがスパークした新しいアルバムを
いつだってかまわない、待っています。



Thank You、
佐野元春&The Hobo King Band
   山本拓夫さん、メロディ・セクストンさん。

そして、この名古屋への旅のチャンスをくれた
ひつじ さんと K さん、
ライヴ終了後、一緒にうまい手羽先と美味いビールを
一杯引っかけてくれた Kさんとぼくと同じように
名古屋まで遠征してきたTさんに心から感謝します。

  どうもありがとう。  またいつかきっとあいましょう!