ハートランドからの手紙#67 |
掲載時:93年9月 掲載場所:「佐野元春をめぐるいくつかの輪のなかで」(ぴあ) |
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この本がみなさんの手元に届くのはきっと冬の入り口、そろそろ君の心のハンガーにコートが用意される頃だろうと思う。
先日僕とザ・ハートランドはこの冬から始まる全国ツアーのリハーサルのために集まった。久しぶりだった。ザ・ハートランドを結成したのが1980年だから、もう13年近く一緒に演奏していることになる。この間育まれてきた友情は僕の財産だ。 子供の頃、家の事情で引越しが多かったせいかなかなか友達ができなかった。人生の中であまりにも頻繁に「こんにちは」と「さようなら」が出入りするとたいていの人は友達を作ることに少しだけ気が引けてしまうものだ。といってひとりぼっちで何もかもやりくりできるほど強くない君は、自分と自分の延長にある物事を媒介に他者とのつながりを求めて街にくりだすわけだ。 ここに「価値の共有」が生まれる。ここでいう「価値」とはたとえば、音楽、映画、ファッション 、スポーツ、本、旅、といった、何か人にメッセージを投げ掛けようとしているもののことだ。 ところが1993年、現在はどうだろう。いつしかそうした「価値」は目的ではなく手段になってしまった。いつしかそうした「価値」はメッセージではなくメディアになってしまった。文化環境の変化、というわけだ。残念だな。でも僕はがっかりする側には回らない。環境が変化してゆくよりもっと速いスピードで僕自身の変化をとげたいと思っている。もしできることならば。 この本に記されていることは、僕の庭の雑草のようなものだ。誰かに刈り取られたとしてもまた季節になれば芽をふきだす。美しい花で庭をうずめようとは思わない。僕はただ庭の土が痩せ細らないように水撒きをしたいだけだ。 最後に。水撒きを手伝ってくれた、編集部望月典子さん、山本智氏、吉原聖洋氏、に感謝します。どうもありがとう。 |
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