1990年というのは世間的には、20世紀最後の10年の幕開けという意味あいが大きいのだろうが、ビートルズ世代の人間にとってはそれ以上に、ジョン・レノンの生誕50周年の年という意味合いのほうが大きいことだろう。
そしてそれは佐野元春も例外ではない。そんな意味のある1990年に、彼はとても意義深い足跡を残した。ひとつは、そのジョン・レノン夫人のオノ・ヨーコと子息のショーン・レノンとの共演で「エイジアン・フラワーズ」という作品をレコーディングしたこと。もうひとつは、その年の12月21、22日に東京ドームでオノ・ヨーコの提唱によって行なわれたイベント、「GREENING OF THE WORLD(G・O・W)」に参加したことだ。
この二つの出来事は密接に絡み合っていて、オノ・ヨーコからこのイベントへの参加を呼びかけられ、その趣旨に賛同し参加を決めた佐野だが、それに留まらず、その時オノ・ヨーコと話す中で自然にメロディーが浮かび、それが「エイジアン・フラワーズ」という作品になった。そして「この曲をレコーディングするならそれは、オノ・ヨーコやショーンと」という佐野の思いが実現したのだ。
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Photo:内藤順司
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またそのレコーディングは、奇しくも「G・O・W」のイベントの記者会見が行なわれた日の深夜に実現された。楽曲はいかにも佐野らしいメロディアスなポップ・ソングで、もちろんそこにはジョン・レノンの魂を受け継いだラヴ&ピースの精神が、色濃く漂っている。
私は幸せなことに、そのレコーディングに少し立ち合うことができたのだが、その場には同じヴァイブレーションを持つアーティストが集った時に生まれる、ピュアな空気が充満して、私もほのかな興奮を覚えたのを記憶している。これは佐野のミュージシャン・シップを語る上で、忘れてはならないエピソードのひとつだ。
東京ドームでの「GREENING OF THE WORLD (G・O・W)」で佐野はビートルズ・ナンバーである「Revolution」を唄った。また、同時期に行なわれていた「Time Out! Tour」大阪公演では、佐野、オノ・ヨーコと子息のショーン・レノンで、ディラン・ナンバーである 「Knockin' on Heaven's Door」 をカバーした。
ポニー・キャニオンからリリースされたレノン・トリビュート・アルバムに佐野は「エイジアン・フラワーズ」を提供し、レコードの売り上げは「レノン基金 ─ GREENING OF THE WORLD」に寄付されている。