04 | ビデオ『ナポレオンフィッシュ・ツアー'89』
1989-1990



「ナポレオンフィッシュ・ツアー」と題された全国ツアーは、ツアー・タイトルとなった、佐野元春にとって6作目のオリジナル・アルバムである『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』のリリースとほぼ同時期、1989年6月18日、戸田市文化会館を皮切りにスタートした。

 このツアーで特筆すべきは、ロックのステージ演出にマルチ・メディアを持ちこんだ国内初の試みが行なわれていたことだ。ステージには、リチャード・ミズラックの荒涼とした砂漠の写真がマルチスクリーンに映し出され、それらはコンピュータで制御されていた。プロジェクト・チームは佐野を筆頭に経験ある米国のスタッフで構成されていた。

  NapoleonFishDay

 このツアーは同じ年のクリスマス、12月25日のラスト・ステージ神戸国際会館まで、全国50ケ所62公演が行なわれた。ツアー・メンバーは、ザ・ハートランドの長田進(G)、古田たかし(Ds)、小野田清文(B)、阿部吉剛(Kbd)、里村美和(Perc)の5人に、ダディ柴田(Sax)、石垣三十郎(Tpt)、ボーン助谷(Tbn)のTokyo Be-Bopの面々。このツアーを収めたビデオ『ナポレオンフィッシュ・ツアー(1989 )―自由への新しい航海―』は、ツアー終了後の翌1990年4月8日に発売された。

 収録曲は、「新しい航海」「ナポレオンフィッシュと泳ぐ日」「愛のシステム」「おれは最低」「ブルーの見解」「コンプリケーション・シェイクダウン'89」「雨の日のバタフライ」の全7曲。「コンプリケーション・シェイクダウン'89」以外は、すべてアルバム『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』からの選曲となっている。

 この選曲には、最近のライヴではなかなか取り上げられることのない曲も含まれているので、本作で聴くことのできるライヴ・ヴァージョンは貴重と言えるかもしれない。画面をフレームに見立てた、数点の美しい風景写真で静かに始まるビデオは、大阪フェスティヴァル・ホールの公演を中心に構成されている。ライヴ・シーンは、モノ・トーンで統一され、本公演で使用されていた巨大なスクリーンの映像が、そのセピア色のライヴ・シーンに交錯する。また、ビデオには収録されなかったが、1989年の公演ということもあって、ラスト・ステージではスクリーンに“Goodbye 80's”の文字が映し出された。

 ビデオ監督は、初期の佐野のライブ・フィルムを多く手がけている坂西伊作。

(池田聡子)



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