08 | ニール・ヤングの自宅を訪問
1989-1990



 1990年の春、佐野元春はサンフランシスコの郊外(サンタクルーズの近く)にあるニール・ヤングの農場を訪問した。もちろんニール・ヤングに会うために、だ。

 1989年の夏から続いた「ナポレオンフィッシュ・ツアー」を終えたばかりの佐野にとっては、束の間の休息の時期だった。ニール・ヤングと佐野の出会いは「ナポレオンフィッシュ・ツアー」のステージ・デザインとライティングなどの演出を担当したジェイムズ・ジョン・マジオの仲介によって実現した。

  佐野はデビュー10周年を迎えるその年、自分の中に内包するピュアなロックンロール・スピリットに対して「このままでいいのか?」という疑問を抱えていた。そして 70年代、自分がまだ柔らかで繊細で無垢な魂をもって音楽に接していた時代に出会ったニール・ヤングの「Heart of Gold」の一節“僕は黄金の心を求めて旅を続けている”という言葉の真意とその想いがまだ継承されているのか、ということを確かめるためにヤングの農場を訪れたのだ。

 佐野が抱えていた疑問はニール・ヤングが発したひとつの言葉によって氷解した。「自分は常に革新している。ただ、マスコミがそれを受け入れないのだ」。ヤングのこの言葉は佐野を勇気づけた。その後、佐野元春は6月からレコーディングに入った新作『Time Out!』の中で、真摯に自分のバックグラウンド(あるいはルーツ)を辿り始めるのだ。

 約10年前に“つまらない大人にはなりたくない”と宣言した彼は1990年に34歳になった。そして『Time Out!』のオープニング・ナンバーで「僕は大人になった」と堂々と宣言する。アルバム『Time Out!』はニール・ヤングと出会った際に確認した佐野自身の“ロック観”をさらに内向的に煮詰めた作品となっている。

 ここにある感情は8年の時を経て、さらに大きな翼を広げ、ウッドストックでレコーディングされたアルバム『THE BARN』へと受け継がれていくのである。

(下村 誠)



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