09 | ハートランドからの手紙
1989-1990



 「ハートランドからの手紙」と題された、佐野自身のペンによる文章が初めてファンの目に触れたのは1982年2月、「ウェルカム・トゥ・ザ・ハートランド・ツアー」のパンフレットにおいてだった。以来、佐野はツアーパンフレットのみならず、雑誌「THIS」をはじめとする数々のペーパーメディア、宣伝物、他アーティストの作品へのメッセージなど、寄稿する散文の多くを「ハートランドからの手紙」として公表している。

 形態はさまざまだ。ときに読み手の耳元に語りかけるようなエッセイ、または個的な日記、詩、そして率直な謝辞……。その多くはファンへ向けて綴られる佐野からの「私信」でありながら、自らを奮い立たせるような「言葉の探検」にあふれている。 

 1990年11月、それまで書かれた「手紙」#1〜44をまとめた単行本『ハートランドからの手紙』が扶桑社より発刊された。同書には他に、散文詩「エーテルのための序章」、10代の頃に大きな影響を受けたアーティスト(ボブ・ディラン、ブルース・スプリングスティーン、ジョン・レノン、ニール・ヤング、ルー・リード、アレン・ギンズバーグ、グレゴリー・コルソ)への想いを綴った「精神の系譜」、またアルバム『Time Out !』までの遍歴を直裁的に書き下ろしたエッセイ「1990年の地平」などを収めている。

 同書は1993年4月、新たに#45〜58を加え、角川書店から文庫化された。詩人・荒川洋治は、巻末の「解説」をこのような文章から始めている。「これは詩と言葉の本だけれど、歌の本でもあるとぼくは思った。ぼくはこの『ハートランドからの手紙』を一冊の本を読むというより、一冊の本を歌う気持ちになって読んだ」 たとえ「手紙」のひとつが宣伝用の惹句の場合でも、その言葉は佐野にとって「音楽とならぶアート表現の一環」であることを裏付ける一文だろう。

「私信」は現在も継続されている。#59から#109はオフィシャルWebサイト「Moto's Web Server」内に掲載(http://www.moto.co.jp/cover/HL_letter/HL_letter.html)。ときには『THIS』休刊の報告など、残念な「私信」が混ざることもあるが、正直に綴られる言葉の数々はファンの心にダイレクトにつながるものだ。

 なお、最も新しい#116は、アルバム『20周年アニバーサリーエディション』の限定特典ブックレットの「あとがき」に寄せられている。

(増渕俊之)



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