02 | アルバム『TIME OUT!』
1990-1992


 イギリスの「ぴあ」にあたる情報誌「TIME OUT」。佐野元春はスタジオの隅に読み捨てられていたこの雑誌を見てアルバムのタイトルを決めたらしい。

 1990年にリリースされたこのアルバムは、前作『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』を制作したコリン・フェアリーを引き続き共同プロデューサーに迎えているが、レコーディングは東京でザ・ハートランドと行なわれた。先鋭的でアグレッシヴだった前作に比べると、このアルバムは落ち着いたバンド・サウンドで、曲の内容も内省的なものが多い。




 佐野はこのアルバムの制作に先立って、知り合ったデジタル世代の若いレコーディング・エンジニアたちがビートルズのアルバム『リボルバー』を新鮮に受け止めていることに興味を覚え、敢えてアナログ機材を使ってレコーディングを行なった。その結果このアルバムには「恋する男」や「ジャスミンガール」のようなシンプルでフレンドリーな佳曲が収録されることになった。

 佐野のピアノ弾き語りによる「君を待っている」では、ピアノ椅子のきしみが録音されてしまったが、佐野はエンジニアの忠告を制してその臨場感あふれるヴァージョンをアルバムに収録したという。アルバムの最後を飾る「空よりも高く」では、雷鳴が遠くとどろく中、自動車で家路をたどる男の姿が描かれる。この雷鳴は次のアルバム『Sweet 16』の冒頭へとつながっていくことになるわけだが、果たしてこの男は雨が降り出す前に家に帰り着けたのだろうか。

 それでも佐野はアルバム・タイトルの最後にエクスクラメーション・マークをつけることを忘れなかった。『TIME OUT!』と。

(西上典之)



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