03 | アルバム『Sweet 16』
1990-1992



 数ある佐野元春作品、それをあえて大きく分けるとすると、二つの群に分けられるのではないか。それはメッセージ性の強い、ある意味“重い”作品と、あくまでポップにはじけた楽しい作品とである。

 そして後者の作品が特に多く収められているのが『Sweet 16』だろう。デビュー当初からもちろん、彼には前述の二つの世界のどちらもが、はずせないものとして共存していた。が、どちらかというと社会的、政治的なものに対する批判、メッセージ、イコール、難しい作品というイメージが特にこのアルバムがリリースされる以前の数年、多少色濃かったように思う。

 そんな時に誕生したこのアルバム、とびきりポップなタイトルも衝撃的だったし、ジャケットのスイートなチェリーパイというポップさもまた、彼のこれまでの作品の中では異色なものだった。もちろん収録されている全12曲も、それほど難解なものはなく、タイトル曲などはこれでもかというほどポップにはじけている。

 全体を通してその歌詞の中にはコマドリ、虹、チキン・スープ、ブルーベリーワイン、フラワーなどといったドリーミーな言葉が散りばめられ、それらもまたポップな空気をこのアルバムに送り込んでいる。さらに、もちろんただ楽しいだけではなく、「失くしてしまう度に 君は強くなる」「天国が君を見つめている」「誰かが君のドアを叩いている」「君のせいじゃない」「いつもそばにいるよ」などという言葉は優しさにあふれ、中にはこのアルバムでずいぶん孤独感を癒された人も、いるのではないだろうか。

 言葉ばかりではなく、全12曲で49分2秒という短さもまた、ポップ・ソングの王道をいっている。「レインボー・イン・マイ・ソウル」だけは5分を超えているが、あとの作品はほとんど3〜4分台。このコンパクトにまとまっているというのも、ポップ・ソングの大事な条件だ。つまり、タイトル、詞・メロディー・アレンジ(曲のサイズも含めて)、ジャケットなどのビジュアルなど、どの観点から見てもこれは、とびきりポップなアルバムといっていいだろう。インタビューの折りに、ジャケットのチェリーパイのエピソードを語ってくれた時の彼の楽しげな様子は、今も記憶に残っている。

 そうそう、アルバムの外箱、「生ものですのでお早目にお聴きください」「このCDは音楽衛生法に基づき作られています」という、二つの注意書きの遊び心がまた気が効いていて、ニヤリと笑わせてくれる。本当にスイートで楽しく、また元気ももらえるアルバムだ。


(角野恵津子)



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