12 | 全国クラブ・キャラバン「アルマジロ日和」
1997-1998



 1997年10月、ウッドストックでのアルバム『ザ・バーン』のレコーディングを終えた佐野元春とザ・ホーボー・キング・バンドが帰国直後に敢行したコア・ファンとメディア内支援者のためのクローズド・ツアー。限定されたクラブ・クラスのみでのライヴ・アピアランス、という異例の全国キャンペーンだ。
 
 10月3日から18日にかけて、福岡を皮切りに大阪、名古屋、東京の各地で開催された。前半にはウッドストックでのレコーディング風景やインタヴューを収めた40分間のドキュメンタリー・フィルムを上映。後半にはニュー・アルバム『ザ・バーン』収録曲のプレヴュー・ライヴ、という構成もまた前例のないものだった。


プレス関係者に配布したカード
 

 リリースの1カ月以上も前にニュー・アルバムの収録曲をすべて披露するライヴを開催してしまう、なんて大胆な真似は佐野元春以外の誰にもできない。さらに最終日の10月18日に行なわれた赤坂ブリッツ公演の模様はインターネットを通して国内外にライヴ中継されている。
 
 完成したばかりのアルバム『ザ・バーン』を一刻も早くファンに聴いてほしい、という佐野の強い希望によって実現したツアーだが、このアルバムに対する彼の想いは1曲ごとに丁寧にMCを挟み、レコーディング中のエピソードなどをユーモアたっぷりに語るフランクな態度からも伝わってきた。佐野とザ・ホーボー・キング・バンドの演奏が素晴らしかったことは言うまでもない。
 
 そして、のちに本人が「僕はこれまでステージの上であんなに喋ったことはない」と断言するほど饒舌なMCも、クラブ・キャラバン「アルマジロ日和」に参加できた幸運なオーディエンスを大いに楽しませ、佐野元春のチャーミングなユーモアのセンスを改めて思い知らせてくれた。
 
 そう。'90年代後半に実現した佐野元春版「ローリング・サンダー・レヴュー」は飛びきりチャーミングなツアーだった。

(吉原聖洋)



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