14 | スポークン・ワーズ・ライヴ「Summer of 2000」
1999-2000



 ビートの精神を受け継ぎ、デジタル・ビートに言葉を泳がせる画期的なアイテムだったカセット・ブック「エレクトリック・ガーデン」から15年。2000年7月27日、都内某所で行なわれたウェブ上でのスポークン・ワーズ・ライヴ「Summer of 2000」は、昨今注目されているポエトリー・リーディング・シーンの動向に対する佐野元春からの回答だった。


フォトグラファー:渡辺真也


 KYON(Instruments)、里村美和(Percussions)と共に“ホーボー・キングからの伝言”“僕が旅に出る理由”“植民地の夜は更けて”“冗談の探求”“ストリート・ミーティング”“日曜日は無情の日”という計6篇の詩が音楽と一緒に詠まれた。

 通常の佐野の音楽の上で踊る言葉以上に、この日の言葉たちは饒舌だった。少しだけ表情が変わっているだけで、音楽もスポークン・ワーズも同じ表現のひとつであると直接アナウンスせずに語るかのように。

 佐野のスポークン・ワーズは、物語性が強い。語られる物語は生演奏と並走することで、特殊なものでなく、限りなく普遍的なものとして捉えることが出来るのである。いい言葉というものは、その言葉の先に様々な風景が見て取れる。そして繰り返し触れたくなるものである。個人の物語から着想したものなのに、誰かのかけがいのない物語へと自然に移行してゆくのである。時にビートが生まれ、メロディアスに聞こえてゆきながら。日本ではまだ未成熟なスポークン・ワーズ・シーンの未来を提示してくれたのがこの夜のパフォーマンスだった。

 再び積極的にスポークン・ワーズに取り組もうとする彼の姿勢は貴重な記録集「Spoken Words-Collected Poems 1985-2000」のリリースへと続く。ウェブ上でのライヴという新しいメディアを用い、原初的な素の言葉に近いものを届ける。佐野の中に潜んでいた言葉への探求心が再び公に現われた夜。音楽だけではなく言葉だけでもない表現者としての力を見せつけられた夜だった。

(東 雄一朗)

●関連サイト
go4



Previous Column | Next Column



Now and Then