03 | ミルク・ジャム・ツアー 2003-2004

 いうまでもなく、佐野元春がデビューしたのは、エピックソニー(正式名称 2003年5月20日の神戸会館から始まり、同年7月20日の渋谷公会堂(現・CCレモンホール)まで、全国10都市、15会場で行なわれたライヴ・ツアー。“ミルク・ジャム”とは,佐野元春の好物で、本人はそれをツアー名として使用したと語っているが、ミルク・ジャムの“ジャム”とは、ジャム・バンドの“ジャム”でもある。それは当時の佐野元春の言動からも明らかだ。このツアーの時点で、まだ13枚目となるオリジナル・アルバム『THE SUN』は発表されていないが、その骨格はかなり明確なものとなっていたと思われる。

 そしてそのアルバムのキーワードのひとつが“ジャム”である。さらにThe Hobo King Bandもまた、ライヴにおいてジャム・バンド的展開を目指していたと思われる。ジャム・バンドとはすなわち、ロック的インプロヴィゼーションを行なうバンドである。グレイトフル・デッド、オールマン・ブラザーズ・バンド、もちろんボブ・ディランも彼らと同じ方向を見ていたアーティストだ。彼らは、まずバンドのメンバー同士で、自分たちが何を演奏しようとしているのかを探り合うようにして音を出していく。それが徐々にひとつの方向を示すようになると、今度はオーディエンスの反応を見ながらの演奏に変わる。それはスタジオ・レコーディング作品では味わうことのできない一夜限りのセッションへと変わっていく。それがジャム・バンドの最大の魅力である。

 そしてこのツアーの狙いは、翌04年に20周年記念エディションとして復活するアルバム『ヴィジターズ』の全曲をライヴ演奏することでもあった。佐野はそのアルバムのアニヴァーサリー・エディションのリリースを見据え、日本のロック/ポップ史に燦然と輝くこの革新的なアルバムとThe Hobo King Bandの出会いこそが、次なるステップに欠かすことのできないものになると考えたのではないかとも感じる。同じく翌04年7月に自らのレーベル「Daysy Music」から発売することになる『THE SUN』には、このツアーで聴かれたいくつもの試みを見ることができる。

なお、ツアーの開催を記念して、オリジナル・ミルク・ジャム・セットも販売された。

(岩本晃市郎)

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