07 | 『アルバム「In motion 2003 - 増幅」 2003-2004

 1980年代から多彩に展開してきた佐野元春のスポークン・ワーズ表現は、2000年代に入ってステージでのパフォーマンスを本格化させる。2001年9月21日と22日に鎌倉芸術館小ホールで開催された「In motion 2001 - 植民地の夜は更けて」は、全篇がスポークン・ワーズで構成されたモニュメンタルなライヴとなった。9.11の衝撃も生々しいままに、アンコールで披露された「光-The Light」を例外として、佐野元春の多彩な作品群が独自のスポークン・ワーズ表現で脈動した。

 果敢な冒険心を抱く「In motion」プロジェクトは2年後、さらなる展開をみせることになる。「鎌倉芸術館 詩と音楽のコンサートX In motion 2003 - 増幅」は、2003年11月15日と16日に3ステージが開催された。音楽面のディレクションは前回と同じく井上鑑(ピアノ/キーボード)がコラボレート。これに山木秀夫(ドラムス)、美久月千晴(ベース)、金子飛鳥(ヴァイオリン)がメンバーに加わった。

 ジャズ・オリエンテッドな特質をもった前回に比して、ここではさらにロック表現を尖鋭化させたパフォーマンスが劇的に展開された。ステージ終盤、「何もするな」「世界劇場」「何が俺達を狂わせるのか?」の白熱したパフォーマンスは特に圧巻だ。その一方で「アルケディアの丘で」の寓話的な世界が独特の演劇的質感を醸し出すように、佐野のスポークン・ワーズ表現の多様な奥行きと可能性を示している。

 アルバム「in motion 2003 - 増幅」は、赤川新一の録音とミックスにより、その全容を一連のドキュメントとして余すことなく収録している。しかし、類例のない同ライヴのレコード化は、さらに予期せぬ激動をともなうことになった。所属レーベルEPICがコピーコントロール仕様を施して2枚組での発売を強行しようとするのに対し、一枚のディスクに全篇を収めライヴ・パフォーマンスの流れを再現するというアーティスティックな判断を重視した佐野は、結果自身が運営する「GO4レーベル」からのオンライン発売を選択。2004年5月にリリースされた本作は、ディスクにおける佐野元春の新時代を予兆させるものともなった。 

(青澤隆明)

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