10 | 「マウントフジ・ジャズ・フェスティバル2004」出演 2003-2004

 2004年8月29日、佐野は「スポークンワーズ」を引っ提げ、1986年から続く日本有数のジャズ・フェスティバル「マウントフジ・ジャズ・フェスティバル2004」に出演した。

 佐野は80年代より通常のロックンロール音楽とは別に、「スポークンワーズ」表現の可能性を探求し続けており、これまでにいくつかのイベントで披露してきている。このジャズ・フェス出演の前にも2001年、2003年に鎌倉芸術館において2回の単独ライブイベントを開催し、成功させている。

 この公演の前から「佐野元春の表現というくくりにおいて、もはやポップソングもスポークンワーズも大きく違うものではない」との佐野の発言があったが、その発言の真意をこの日最後の曲『何が俺達を狂わせるのか?』から一瞬垣間見ることができた。

 曲終盤の「♪1センチ・2センチ・3センチ……」と繰り返し佐野から発せられる声と、この日もバックバンドで参加したThe Hobo King Bandの山本拓夫のサックスによる言葉と楽器の応酬。雨の止み間に観たそのステージ上の光景は、その断片を切り取ればいつものロックンロールライブで繰り広げられる佐野と山本のパフォーマンスとなんら変わるところはない。そこには聴き手に訴える詩・言葉があり、その言葉を支えるビートがある。「ビートの中に言葉を散らす」表現を展開する佐野のステージにおいて、たしかに、ポップソング/スポークンワーズ表現の線引きの意味はあまりないようにも思える。

 その表現方法の違いから顕在化されるものとは何なのか。その違いにより詩・言葉は聴き手へどう響くのか。また伝わり方はどう変わるのか??これら長年にわたる実験、探求の成果が、佐野自身の後のロックンロールライブや、自らが教鞭をとった大学の講義、そしてそこから展開したテレビ番組へと生かされていることは間違いないところだろう。

(山田和弘)

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