01 | アルバム『COYOTE』 2007-2009

 佐野元春の第14作目となるオリジナル・アルバムは、前作『THE SUN』から3年のインターバルで届けられた。タイトルは『COYOTE』。このアルバムはThe Hobo King Bandではなく、メロウヘッドの深沼元昭(g)、ノーナ・リーヴスの小松シゲル(dr)、グレート3の高桑圭(b)といった、ひとつ下の世代のアーティストとのセッションによって制作された。

 佐野によれば、このアルバムは主人公である「コヨーテ男」が荒地をさまよい、最後に海にたどり着くまでを映画のように描いた作品であるという。その旅、道行きの途中で出会うさまざまな人とのやり取り、主人公の心の動きがそれぞれの楽曲となっているのだとすれば、この作品はさながら『イージー・ライダー』や『ダウン・バイ・ロー』、あるいは『ワイルド・アット・ハート』のような、佐野版ロードムービーだと言えるのかもしれない。

 音楽的には生ギター、生ピアノを多用したシンプルな曲が中心で、高いプレイヤビリティを背景に独特のグルーヴを生み出すHKBとは異なった、清新なビートが特徴的だ。

 テーマは「生き延びる意志」である。「コヨーテ男」には善悪の絶対的な基準はなく、ただ生き延びることへの意志だけがある、と佐野は説明する。それは「ここにいる力をもっと」と神にすら訴えた前作から通底するものであり、また佐野の作品すべてにおける最も基本的なモメントだ。そのことはこのアルバムのタイトル・チューンであり、7分を超す大作である「コヨーテ、海へ」に顕著である。「あてのない夢は捨ててしまえ」と歌われるこの曲で、佐野はいつになく具体的で現実的な「勝利」を求めている。あてのない夢ではなく、この世界で生き延びるための具体的で現実的な力、それをこそ佐野は、そして僕たちは必要としているのだ。


 この困難な世界で生きる続けることへの、強い意志をコミットした00年代の傑作だ。

(西上典之)

Next Column

Now and Then

このテキストは著作者本人にあります。掲載転載の際はwebmasterまでご連絡ください。