04 | 書籍「ビートニクス−コヨーテ、荒地を往く」 2007-2009

 アルバム『COYOTE』を掲げて、現代の荒地を旅往く佐野は、未来をまなざしながら、どこかに先達のことも思い浮かべていたのだろう。2007年、彼はそうしてビート・ジェネレーションのアメリカを探索し、そしてもう片方の足で大学へと赴くことになる。つまり、自身が責任編集した雑誌『THIS』(第3期/1994年〜97年)初出のテクストを改めてみつめ、母校立教大学で教鞭をとるわけだが、佐野にとってはいずれも再訪の機会だ。歳月は雑誌を書籍へ、社会学部の学生を文学部講師へと変貌させた。こうして「世代間の共感伝達」に強く意識を向けた佐野元春はまず書籍を通じて、アメリカそしてビートへの憧憬を、ロマンティシズムとリアリズムの幸福な出会いのなかに美しくも切実に描き出してみせた。

 本書『ビートニクス-コヨーテ、荒地を往く』は、1980〜90年代の佐野元春が全身全霊で呼吸したアメリカを、改めて21世紀に問いかけた書物だ。真摯な率直さでみたビートの先達たちの光景を活写し、精神の系譜をめぐる清新なルポルタージュとして、佐野はここに再び投げかける。

 1994年のアメリカ再訪を中心に、雑誌『THIS』に掲載されたテクストにもとづき、各章は構成されている。「ニューヨークシティ再訪」は、10年前に棲んだ同地を訪ねてのエッセイ。「ビート、そして反逆の天使たち」は「ナロパ・インスティテュート創設20周年記念式典」のルポルタージュで、アレン・ギンズバーグ、グレゴリー・コルソ、ゲイリー・スナイダー、マイケル・マクルーア、ケン・キージーへのインタヴューを含む。「ケルアック、彼のホームタウン」は、同年暮れのローエル巡礼にもとづくテクスト。このときの短篇ドキュメンタリーDVDも付録されているが、モノクロームの美しい映像詩だ。

 また「ビートとの対話」には、1994年7月ナロパでの取材だけでなく、1986年1月にニューヨークで行われたギンズバーグ、コルソ、1994年12月東京でのマクルーア、レイ・マンザレクとの対話も加えられ、佐野元春とビートとの交感を多様に集積している。

(青澤隆明)

Next Column

Now and Then

このテキストは著作者本人にあります。掲載転載の際はwebmasterまでご連絡ください。