小説『GO』の世界には爽やかな風が吹いていた。「コリアン・ジャパニーズを主人公にした小説」の古臭い既成概念を軽やかに打ち破り、しかもユーモアのセンスを忘れないポジティヴな作者の姿勢はとても新鮮だった。厄介な障害物に行く手を阻まれても決して諦めず、明日を見据えて前に進み続ける作者とその分身らしい主人公の大胆不敵なフットワークは僕に誰かを思い出させた。そう。そのフットワークは佐野元春のそれによく似ていた。居心地のよい場所に留まり続けることをみずからに許さない強靭な意志がそこにはあった。作者の金城一紀が佐野元春のファンらしい、という噂を耳にしたのは、それから数ヶ月後のことだ。 |
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