佐野元春による楽曲解説

ジュジュ

アレンジはモータウン・サウンドを支えたミュージシャンやシンガーへのリスペクトと憧れを素直に表したもの。《ジュジュ、君がいない》という表現は「不在」の象徴です。ぼく個人の人生や聴き手の人生、この社会・地球・宇宙に不在なもの。その象徴です。

夏草の誘い

もともとはポップなダンス・チューンだったけど、今回はまるでフォークソングのように仕立て、柔らかな牧歌性というべきニュアンスを押し出しました。歌詞も少し変えていて《汚れを知らない小鳥のように》を《言葉を知らない小鳥のように》と歌っている。そのほうが今の自分にとって好きです。

ヤングブラッズ

サウンドはラテン・ロック。ホーボー・キング・バンドはラテン・ロックが大好きだから、みんなニヤニヤしながら演奏している。《鋼鉄のようなWisdom 輝き続けるFreedom》は僕の中から出るべくして出てきたフレーズ。だから今、そして未来に鳴り響くフレーズであることを自分自身でも証明したいし、みんなの意見も聞いてみたい。

クエスチョンズ

長田 進のギターがすごく効いている。これは世の中に何か言いたい少年の成長について歌っている。少年は世の中にタカをくくっているけど、現実が見えてくるとスキルアップしなければ太刀打ちできないと思い直し、シリアスに《僕は哲学する・学習する》と歌い出す。一曲の長さの中で、主人公は気を引き締め直すんです。

彼女が自由に踊るとき

この曲はラヴ・サイケデリコがゲストで参加してくれて、彼らを想定してフォーク・ロック的なアレンジにしました。ソングライターとして着目したのは“彼女が自由に踊るときは、世界も自由に解放される”という視点。こうした人生の一瞬の気づきをさっとスケッチして3分間のロックに仕立て上げる。それがぼくの仕事です。

月と専制君主

柔らかなソウル音楽で柔らかな社会抗議をしている曲。《言葉に税はかからない》は僕が編み出した中でも最高のラインだと思う。そして《川は流れ すべては繰り返す 君は君 かけがえなく》という気付き。そして大好きな君と歩いていこうという決意。それがこの曲のすべてを物語っている。

C'mon

この曲は書いた時からのお気に入りで、今回のように落着いてノン・シャランとした表現もありだろうな、と前から気付いていました。日常に暮らすこの男は、残酷な世界の景色なんてどこ吹く風。世の中これでいいのさ、という人生に対する若干の不真面目さがある。そこが好きです。

日曜の朝の憂鬱

アルバム『VISITORS』に収録されていたオリジナル楽曲に対して、更に温かみのあるアコースティックなサウンドに変えてみたかった。この曲も「ジュジュ」や「君がいなければ」と共通して“君の不在”について歌っている。大切な何かの不在。それぞれの人にとって何が不在なのか?という問い掛けがこの歌の中にあります。

君がいなければ

オリジナルは『The Circle』に収録。それまで僕に影響を与えてくれた女性を想って書いた、何のギミックもない愛の曲。今の精神で歌ったボーカルを聴いてほしい。そしてよかったらオリジナルのテイクと聴き比べてもらい、お互い今に至るまでに何が変わったのか、そんな問いを併せもって聴いてくれたらいいな、と思っています。

レインガール

オリジナルにあるストレートなロックンロールの制約を外して、ワルツの曲調で歌い直している。僕にとって3拍子は、さあみんなで歌おう!と呼び掛ける音楽。そこには団結やユニティが生まれる。それは今の時代に得られにくいもの。友愛の感覚を取り戻したいという願いもあって、こういう曲調に向かったのかもしれない。