ハートランドからの手紙#126
掲載時:2000年11月
掲載場所:映画「ビートニク」宣伝用フライヤー
掲載タイトル:抵抗の天使たちに

 僕はその場に居あわせていた。このドキュメントの冒頭のシーンは、1994年に開催されたナロパ・インスイステュートの記念式典から始まる。美しい自然と、全米一リベラルな町として知られる、米国コロラド州ボルダーにあるナロパ・インスイステュート。禅とともに、文学運動としてのビートの研究を進めるその機関の、創設20周年を祝うイベントが開催された1994年の初夏。アレン・ギンズバーグ、グレゴリー・コルソ、ケン・キージー、ゲイリー・スナイダーといった伝説のビート世代が集まった、静かでおごそかな一瞬。僕は、その場に居あわせていた。

 自分が主宰する雑誌の取材も兼ねてはいたが、実は、これだけのビート作家達が一堂に会すのは、今世紀中、これが最後になるだろうと思っていた。実際この数年後にアレン・ギンズバーグと、ウィリアム・バロウズが死去。僕にとってその取材の旅は、生前の彼らにどうしても会っておかなければいけない、という逼迫したなかでの邂逅であった。このフィルムを見て、僕はナロパ・インスイステュートの記念式典における、老ビートたちの、不思議なまでに澄んだ瞳を思いだしていた。

 ギンズバーグ氏にインタビューした際、もっとも印象的だった彼の言葉。- Don't follow my past extention. 誰かのフォロワーになるな。先人の失敗を繰りかえすな。過去のアイコンにすがるな。ギンズバーグ氏はそうメッセージした。そのとおりだと僕はうなずいた。未来は過去の延長では決してない。このフィルムに多数登場した現存のビート達にとっての共通のメッセージでもあるにちがいない。


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