ハートランドからの手紙#65
掲載時:93年9月
掲載場所:「佐野元春をめぐるいくつかの輪のなかで」(ぴあ)

朝、起きて新しいシャツに着がえる。いい気分。最近受け取るのはがっかりするニュースばかりだから。朝、起きて君の名前を呼ぶ。心の窓がだんだんクリアになってく る。今日も何か愉快なことを探そう。もし心の中に閉じ込めているものがあるなら、今日は全部解放してしまおう。久しぶりに青空が見えている。気持ちを切り替えるにはぴったりの日だ。好きなミュージシャンの新しいレコードが届いた。パッケージを開く。ちょっと事情があってずっと聴くのをがまんしていた。でも今日はゆっくり聴ける。たっぷり時間をとって。ああ、どうかがっかりさせないでほしい。今日は決してブルースを聴く日ではないから。心臓の鼓動のようなベースキックを感じたい。雨の雫のようにゆっくりと流れてゆくサキソフォン・ソロが聴きたい。バイクのキーを取る。くだらない雑誌はみんな捨てた。TVには関心ない。腐ったヒットチャートはクズカゴの中。世界中の電源をOFFにしたい気持ち。唯一君を照らす玄関の灯りだけを除いて。君の心の中のヒットチャートを教えてほしい。いつか君専用の雑誌を作ってあげることができたらなあ。僕の望みはたったひとつ。君と「いい物」を交換したい 。二人のアンテナのつくりは違うけれど、キャッチするものに少しでも重なりがあれば、僕らは友達になれる。だから、今日のような気分のいい日は、そんなふうにして過ごそうと思っている。いいだろ?


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