佐野元春が全面的にプロデュースするレーベル“M's Factory”が発足したのは1986年の5月だった。
のちにアルバム『Cafe Bohemia』に収録されることになる「ストレンジ・デイズ」「シーズン・イン・ザ・サン」「ワイルド・ハート」の3枚のシングルの連続リリースが“M's Factory”レーベルの最初のアクションだったが、佐野はそれと同時にもうひとつのプロジェクトを進行させていた。
それは佐野がDJを務めていたラジオ・プログラム「FM SUPER MIXTURE」の中で毎月1作品のペースでレコーディングされた作品たち。いわばプロデューサー・佐野元春によるインディペンデントなアクションだった。

「シーズン・イン・ザ・サン」でもチャーミングなバッキング・ヴォーカルを聴かせてくれるROMYと佐野の分身である“ブルー”が組んだブルーベルズ。ザ・ハートランドのドラマーである古田たかしのユニット、ジュゴン。同じくザ・ハートランドの西本明のユニット、エスパシオ。同じくザ・ハートランドの阿部吉剛。ダディ柴田率いるザ・トーキョー・ビバップ。のちにホーボー・キング・バンドに参加する佐橋佳幸。坂本みつわのユニット、チャーティ・ボーイズ。シンガー・ソングライターの石渡長門。北海道在住のロック・シンガー、藤森かつお。ブリティッシュ・ロック系のイーストエンダーズ。佐野はこういったアーティストたちの作品を番組内のコーナーで制作し、オンエアした後、リスナーからのレコード化の要望に応える形でアナログ・シングルをプレゼントしていた。
それらの作品を集め、“M's Factory”レーベルからリリースされたのがコンピレーション・アルバム『mf<Various Artists>Vol.1』である。アルバム『Cafe Bohemia』を挟んで足掛け3年に渡る作業だったわけだが、佐野はここに参加した11組のアーティストたちの魅力を見事に引き出し、プロデューサーとしての手腕を発揮している。