1990年、アルバム『Time Out!』のトラックダウン作業のために佐野は単身ロンドンに渡った。彼の渡英はこれが初めてではなく、アルバム『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』レコーディング時にもロンドンを訪れている。
佐野がロンドンに行くとき、常宿にしているホテルがあるという。「Colonnade Hotel(コロネイド・ホテル)」がそれだ。このホテルはロンドンの中心地にほど近い場所に立地しているにもかかわらず、ホテルガイドやトラベルブックにはほとんど掲載されていない、いわば知る人ぞ知るホテルなのである。
建物そのものは決して大きくはなく、瀟洒(しょうしゃ)な印象の佇まいだが、このホテルの歴史は古く、1938年、当時「Esplanade Hotel」という名で営業していたころには心理学者のフロイトも宿泊していたという。
佐野が利用するのは必ず17号室と決まっており、ロフト形式になっている部屋は一人では十分すぎるほど。後にわかったことだが、フロイトもこの17号室を利用していたとのことで、それを知った佐野は「僕が泊まっているこの部屋で「精神分析入門」の原案を考えていたんだな、ということを思うと、とても神聖な気持ちになる」と当時語っている。
DJ番組「テイスティ・ミュージック・タイム・イン・ロンドン」での第1回目は、この17号室で収録が行なわれた。